東京で日本語教師をしていた私は2025年9月、前任者から引き継ぐ形で、ブルガリアの古都、ヴェリコ・タルノヴォの大学で日本語講師に。初めて在外投票することになった。時間と交通費を要した体験を報告する。
■投票期間は国内有権者の3分の1
出国前の9月、自宅がある東京都小平市選挙管理委員会で申請、4カ月後の投票になった。「衆議院小選挙区 東京都第19区」と書かれた「在外選挙人証」が11月、首都ソフィアにある在ブルガリア日本国大使館から送られてきた。
その前に、「在外選挙人証」を大使館で受け取れるとの案内メールが来たが、私のまちはソフィアまで約200キロ、直通バスで3時間ほどかかる地方都市だ。ほかに①投票する日に受け取り、その場で投票する②居住地に郵送してもらう、2つの方法があるとわかり、送ってもらうことにした。


衆議院は2026年1月23日解散、27日公示、投開票は2月8日に。解散した当日、大使館からメールが届いた。投票期間は、5日後の1月28日から31日の4日間(午前9時30分~午後5時)。最長で2月7日まで期日前投票できる国内有権者の3分の1の短さだ。
偶然休み期間中のため、初日に投票することにした。時差7時間。パソコンで購読している朝日新聞と毎日新聞のデジタル版朝刊は、前夜10時ころから読むことができる「深夜刊」だ。27日夜、翌日の朝刊で候補者の氏名や政党、公約や各政党の政策などを確認した。
28日午前10時50分に発車したバス(3236円)はほぼ満席。冠雪のバルカン山脈を左手にひた走り、午後2時ソフィアに着いた。大使館に行くのは初めてで、場所はサイトで調べておいた。


■2種類の紙幣とコインを用意
ブルガリアは今年1月、欧州共通通貨ユーロを導入。1月は自国通貨も使えるため、手元には2種類の紙幣とコインが入り混じる。Ф(F)、C(S)、P(R)などのキリル文字のため、駅名確認にも時間がかかる。中央駅から地下鉄に乗り、中心街のセルディカ駅で乗り換え。通路で男性2人がバイオリンを奏でていた。美しい調べに足を止めたくなるが、投票は5時までだ。
この駅のホームは、細い金属棒がブラインド(すだれ)のようにホームと線路を仕切り、電車の着発に合わせて上がり下がりするいわば透けたホームカーテン。「電車のドア位置が違っても乗り降りできるのか」と、感心していると電車が入ってきた。ジョリオ・キュリ駅で下車し、数分歩くと閑静な住宅地に大使館があった。壁に「在外投票」の掲示がある。


大使館内の広報文化センターに案内され、在外選挙人証と旅券(パスポート)を提示。大使あての「投票用紙請求書(在外公館等における在外投票)」に氏名などを記入した後、渡された封筒の表に、小平市選管の住所、あて名欄に「小平市選挙管理委員会様」と書き込んだ。
「投票所」には、「受領係」「受付係」「立会人」などを務める職員が3人。投票用紙3枚を受け取り、見慣れた記載台で記入するが、投票箱はない。小選挙区、比例区、最高裁判所裁判官国民審査の票ごとに、自分で小封筒にいれて糊封。それを、表に自分の氏名を書いたもう一つの封筒に入れ、それも糊封した。3通は小平市選管あての封筒に入れて空輸され、投票日までに市選管に届く流れだ。投票を終え、大使館の外に出た。自室を出てから5時間35分かかった。

■「電子投票実現を」の声も
「最短総選挙 在外投票に壁」「遠い公館 期間短く交通費負担も」「郵便請求 日本に届くまで1週間」。
衆院が解散された1月23日付の朝日新聞夕刊社会面に、在外投票の問題点を伝える記事が載った。海外在留邦人は約130万人(2025年)。在外選挙人名簿登録者10万1762人(2024年)が、そもそも一握りだ。
24年の衆院選小選挙区の投票率は、過去最低の18%台。投票者数約1万7000人に過ぎず、「実質的な投票率は1・6%ほど」だったという。国外で暮らす日本人有権者は投票しないのか、できないのか。記事では、「投票できないのは人権侵害」として、ネットによる電子投票実現を呼びかける関係者の声も紹介された。
総務省は2018年、在外公館で受け付けていた「在外選挙出国時登録申請」が、出国前の市区町村でもできるよう改正。「海外転勤や留学をされる皆様へ 渡航前の申請をお忘れなく!」と呼びかける。
「在外投票の手引き」(総務省)によると、在外投票には、「在外公館投票」のほか、「郵便等投票」、「日本国内における投票」がある。郵便は、投票用紙の請求を含め、現地と日本の間を用紙が1往復半するなど手続きが煩雑で時間もかかる。
「郵送された投票のうち、選挙期日の投票所閉鎖時刻までに投票所に到達したものだけが正規の投票として取り扱われる」とされ、投票した人は郵送した投票用紙が、投票箱に間に合ったのか気になるだろう。「国内における投票」は、選挙期間中に偶然日本にいる場合はありがたいが、投票のために帰国するのは、時間的にも経済的にも、できる人は限られている。
在外公館投票の「投票期間」は、「締切日は在外公館等ごとに異なる」とされ、在外公館から離れた地域の有権者が、投票をあきらめる一因となるとしたら残念だ。

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