東村山音頭で盆踊り(2023年8月、東村山市・諏訪神社)

 清瀬、小平、東久留米、東村山、西東京という〝はなこエリア〟5市のいろいろを並べて比べる企画。今回は市歌を含めて「わが街」を歌ったご当地ソングを並べてみよう。ビッグネームが作った市歌や隠れた名曲もある。探索すれば、意外と掘り出しものが見つかるかもしれない。

■東村山を一躍全国区に

 ご当地ソングで真っ先に思い浮かぶのは、志村けんの「東村山音頭」だろう。東村山市の公式サイトにレコードのジャケット表紙、歌詞付きで紹介されているので、「市公認」のご当地ソングと言える。

 もともとは地元農協が「東京音頭に負けない郷土の民謡を」と1961年に企画し、土屋忠志作詞、細川潤一作曲、人気歌手の三橋美智也、下谷二三子が歌って盆踊りの定番音頭になった。地元の地名や「チョイト チョックラチョイト」などの方言、当時の東村山の名産品「狭山茶」などが織り込まれ、広く市民に親しまれてきた。

東村山音頭(オリジナル版)歌詞

 ちなみにレコードB面は春日八郎、大津美子が歌った「多摩湖小唄」。ウィキペディア「東村山音頭」には「東京郊外の小さな町でこれほどの企画が実現できた背景には、パン食の普及で当時需要が急増していた小麦の出荷により東村山町農協に莫大な収益があったためであるといわれる」という興味深い指摘がある。

 志村けん版は1976年、東村山出身の志村が人気バラエティー番組「8時だョ!全員集合」の「少年少女合唱隊」コーナーで初披露した。1番、2番は民謡調ながら3番で突如、「東村山一丁目、ウワーオ!」とシャウト。子どもたちに大ウケして東村山の名を一躍全国区にした。

東村山音頭(志村けん版)歌詞

 「東村山音頭」は2014年〜16年、市制施行50周年事業の一環として西武新宿線東村山駅の発車メロディーに採用された。2020年、新型コロナによる肺炎で亡くなった志村けんの地元への功績をたたえ同年7月、東村山駅1・2番ホームの発車メロディーとして復活した。音源は以下サイトから聴くことができる。

東村山駅1・2番ホームで「東村山音頭」の発車メロディが復活します

 ところで「東村山音頭」と同じ作詞・作曲家で、三橋と下谷は「田無音頭」も歌っている。「田無しゃ道中の青梅街道の宿場町」と歌う。

三橋美智也・下谷二三子の田無音頭

 保谷には「保谷音頭」。東伏見には「東伏見音頭」があったそうだが、東伏見駅前の盆踊り大会では、2010年の東伏見商栄会創立60周年記念に作られた「東伏見ふれあい音頭」がかかる。商栄会は今年、「東伏見下野谷音頭」を制作。さらに「西東京音頭」もあって「西東京 田無と保谷の合併だ」と歌う。この辺りの人たちはどうにも音頭が好きらしい。

 以上の楽曲の多くはYouTubeで聴くことができるので、一度検索してみてほしい。

■小椋佳が作った市歌 

 地元にしか知られていない、いや地元でも知られているとは限らない「わが街の歌」が市歌あるいは市民歌だ。これも一種のご当地ソング。意外とビッグネームが作詞や作曲を手掛けている。

 例えば西東京市の市歌「大好きです、西東京」の補作詞・作曲は「シクラメンのかほり」など数々のヒットソングを生み出した小椋桂。歌詞は公募で寄せられた179作品から選ばれた。歌詞の拍の取り方が小椋佳らしいといえば、らしい。

市歌(西東京市)

 オリジナルバージョン、音頭バージョン、マーチバージョンという3種のアレンジを施すという「全国の自治体としては極めて異例な試み」(西東京市)をしている。2001年の合併前の保谷市にあった「保谷市歌」は合併とともに廃止された。

 清瀬市の「清瀬讃歌」は、作詞が「男はつらいよ」「三百六十五歩のマーチ」の星野哲郎、作曲は数々の黒澤映画や大河ドラマの音楽を担当した池辺晋一郎。国内外の著名な彫刻家の作品が並ぶ清瀬のシンボルロード「けやき通り」のことも織り込まれた美しい楽曲だ。

清瀬讃歌

 市立清瀬小学校5年2組の子どもたちが清瀬市の養蜂プロジェクトを応援するために作詞・作曲した「きよせの町で」という歌もある。

清瀬小学校5年生×東京清瀬市みつばちプロジェクト「きよせの町で

 東久留米市民の歌は「花の咲く街」。作詞は埼玉県内を中心に300校以上の校歌を作った宮沢章二、作曲は田中利光。細谷しょうこさんがカバーした歌がYouTubeにある。

花の咲く街 東久留米市民の歌

 「花の咲く街 おはよう おはよう」。優しい歌詞と優雅なメロディーの親しみやすい歌だが、市の公式サイトでは残念ながら紹介されていない。「特に理由はなく、登録し忘れたのではないか」(秘書広報課)とのことだが、公式サイトに市歌の映像、音源に加え、合唱曲(2部合唱、3部合唱、混声4部合唱)と弦楽四重奏の楽譜までアップしている西東京市とは対照的だ。

 作曲した田中は「東久留米音頭」も作っていて、作詞は童謡「ちいさい秋みつけた」のサトウハチロー。歌うはやはり三橋美智也。「ひがしくるめでクルリコシャンシャン」とひたすら明るくハッピーな歌で、天地総子が歌った「花の咲く街」のシングルレコード(キングレコード)のB面に入っている。

三橋美智也の 東久留米音頭

 「小平市歌」の作詞は「はるかなるスワニー河…」で始まるフォスター作曲「故郷の人々」の訳詞を手掛けた勝承夫、作曲は文部省唱歌「ゆうやけこやけ」のほか多数の校歌を作った下総晥一。1954年の作品だけに昭和の校歌風、レトロな風格がある。「みどり綾なすはてなき大地」「開拓の歴史を誇る」「学園の町」という歌詞が小平の土地柄を表している。

小平市歌

■街への思い込めて

 自治体や商工会、農協が公的に作った市歌や音頭だけではない。個人がその街への思いを込めて作ったご当地ソングもある。

 小平市在住のシンガーソングライター三ツ矢竹輝さんが作った「KODAI LIFE(コダイライフ)」は、小平市の風景を写し取ったイメージソングだ。市内各所の地名を織り交ぜながらポップな曲調に乗せて「風と緑 花と音楽」と歌っている。

三ツ矢竹輝「KODAI LIFE」

 三ツ矢さんは「市内をぐるっと巡ってみると、東京なのにローカル色豊かで、グリーンロードには緑があふれている、そして人とのつながりを大事にする。そんな街の魅力をこの曲に込めた」と話す。

 「歌う公務員」として知られ、市職員という本業のかたわら小平の魅力を歌ってきたBig市川こと市川裕之さんが作った「いっしょにWORK!」も挙げておこう。職員採用PRソングとして小平市秘書広報課と職員課が2024年7月に企画・制作した。PR動画には市職員が出演している。

【小平市】職員採用PR動画 ~いっしょにWORK!~

 東久留米市を中心に各種イベントをプロデュースするシンガーソングライター、横浜旭さんの「東久留米一匹、蛍」は、ギターの弾き語りで「落合川を独り歩く 酒に溺れ我に自惚(うぬぼ)れ さまよう」と熱く激しく歌い上げる。

「東久留米一匹、蛍」

 横浜さんらが「東久留米音頭」をリメイクした「令和東久留米音頭」は振付を添えた動画をアップしている。

令和東久留米音頭〜メイキング〜

 YouTubeを検索すると、「小平と東村山のうた」「東久留米のうた」「西東京のうた」(白井ヴィンセント作詞・作曲、インビジブルファミリー演奏)を見つけた。もともとテレビ神奈川が制作・放送していた音楽情報番組「saku saku」(サクサク)のコーナー「みんなでうたおうZ」、地域のうたシリーズに登場した曲で、その街の映像とともにロック調の曲が流れる。

saku × ② 小平と東村山のうた
saku × ② 東久留米のうた
saku × ② 西東京市のうた.flv

 京都や横浜のように際立った個性や物語性に欠ける北多摩北部。そのご当地ソングは外に向けた発信というよりも、地元住民のアイデンティティーを確認したり再発見したりする地域文化としてもっと活用できそうだ。 

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By 片岡義博

共同通信社の文化部記者として主に演劇、論壇を担当。福岡編集部、文化部デスクを経て2007年にフリーに。書籍のライティングと編集、書評などを手掛ける。2009年から小平市在住。

One thought on “「並べる・比べる」(3) わが街の歌、知ってますか? ご当地ソングいろいろ”
  1. あら〜?!残念〜
    市政施行50周年記念事業(2012年)の一環で作られた「新こだいら音頭」も取り上げて頂きたかったです〜。
    38の公募から選ばれた詩に、当日教育委員でオペラ歌手の山田大輔が作曲と歌唱を担当させて頂いたんです〜。
    ビッグネームじゃないので仕方ないですけれども〜
    https://youtu.be/iV4eHdjWcfM?si=mPjhMbI3UPyeomAx

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