2021年4月にリニューアルオープンした東久留米市立中央図書館

 地元の人でも隣の市町村や少し離れた地域のことは意外と知らないものだ。「え?そちらではそんな仕組みになってるの?」「こっちにはこんなに面白いものがあるよ」。小平、東村山、清瀬、東久留米、西東京という〝はなこエリア〟5市のいろいろを並べて比べてみたら、これまで見えなかったものが見えてくるかもしれない。まずは身近な市立図書館を比べてみよう。

▼ 6館が半減する清瀬

 市立図書館をめぐっては昨年から清瀬市が揺れに揺れた。市内の図書館6館のうち4館を2025年3月で閉館する条例案が24年3月に可決されたのだ。理由は利用率の低迷など。突然の決定に猛反発した市民が閉館の是非を問う住民投票の実施を求めて署名活動を展開。住民投票条例案は今年2月3日の臨時市議会で否決されたものの、市側は閉館対象だった1館の「当面存続」を余儀なくされた。

 図書館は単に書籍や学習の場を提供するだけの施設ではなく、文化を蓄積・継承・発展させる「知のインフラ」だ。つどいの場、憩いの場でもある。清瀬の事例は住民にとって身近に図書館があることがいかに大切かを再認識させた。

 図書館を評価する場合、さまざまな指標がある。市民1人当たりの蔵書冊数や貸出冊数、蔵書の新鮮度(どれだけ蔵書が新しくなっているか)や回転率(1冊の蔵書が平均何回貸し出されたか)。まず問われるのは住民にとって「どれだけ使い勝手がいいか」だろう。そして使い勝手を大きく左右するのが「近くにあるかどうか」「気軽に立ち寄れるかどうか」だ。

 表は2024年度「東京都公立図書館調査」(2024年4月現在)のデータなどを基に作成した5市の図書館比較表である。

1回当たりの貸出数貸し出し期間(延長)市人口館数1館当たりの自治体面積1館当たりの人口市民1人当たりの蔵書冊数市民1人当たりの貸出数蔵書回転率(個人貸出数÷図書総数)登録率(市内有効登録者数÷人口)図書館費÷2024年度一般会計予算
単位Km2%%
小平市1014(14)195388111.86177636.07.01.215.41.1
東村山市1014(14)15149453.42302984.86.51.414.00.4
清瀬市1015(7)747636→2
6→3
1.71→
5.12
1.71→
3.41
12461→
37382
12461→
24921
5.06.31.313.40.6
東久留米市2014(14)11644543.22291114.36.31.512.00.9
西東京市3014(14)20573762.63342903.89.32.414.80.7

 まず1回に最大何冊の本を何日間、借りることができるか。貸出期間、延長期間はそれぞれおおむね14日間(清瀬の貸出は15日間、延長は7日間)。だが貸出数では西東京が30冊、東久留米が20冊、それ以外は10冊と開きがある。読書好きや研究者にとって、この差は大きい。

▼ 西東京市民は読書好き?

 図書館数や登録者数、図書総数(蔵書冊数)は各市で大きく異なるが、自治体の人口や面積が違うので単純に比較はできない。「1館当たり」「市民1人当たり」どうなのか。

 例えば1館がカバーする自治体の面積は、現在6館の清瀬が最も狭く、最も広い東村山の半分の1.71平方キロ。各館が適当に散在していれば、清瀬ではそれだけ最寄りの図書館が近くにあることを示す。また1館当たりの人口は12461人と最も少なく、それだけゆとりを持って使えることになる。

 しかし6館が将来2館に減ると、1館当たり5.12平方キロ、37382人と数字上は5市の中で最も使いづらくなる。「当面存続」する1館を加えて3館だと多少緩和される。

 市民1人当たりの蔵書冊数は小平が6冊と最多、西東京は3.8冊と最少だが、1人当たりの貸出数は西東京が9.3冊でトップ、蔵書回転率も2.4回でトップになる。西東京市民は読書好きということか。

 各市が図書館の運営にどれだけ予算を割いているか。一般会計当初予算における図書館費(一般職員給料は除く)の割合を見ると、小平が1.1%と突出して高く、最低は東村山の0.4%。しかし一人当たりの貸出数や蔵書回転率と比べると、図書館費の割合の高さが利用率に直結しているとは言えない。

 もちろん、こうしたデータによる比較には限界があり、数字には表れない使い勝手の良し悪しもある。例えば予約した書籍がどれだけ早く届くか。新刊書がどれほど購入されるか。公式サイトの使いやすさ、開架図書の並べ方、閲覧スペースの広さ、受付の対応など挙げればきりがない。

▼ 個性豊かなサービス

 5市の図書館には蔵書やサービス、イベントにそれぞれ特徴があり、使い勝手や利用率につながっている。各館をのぞいてみよう。

【小平】

 デジタルアーカイブが充実している。小平市史、写真資料、平櫛田中の彫刻作品・文庫(15000点)をデジタル化。3D画像の彫刻作品とともに公式サイトで公開している。町報・市報記事や新聞記事の検索データベースは便利で、古文書に触れてもらうためのサイト上の「古文書講座」も面白い。

 中央図書館2階の参考室は広々として地域資料、参考図書が充実している。イベントでは全国の地方紙元旦号を集めて巡回展示する「ふるさとの新聞元旦号展」は今年で45回目を迎えた。

【東村山】

 国立ハンセン病資料館がある東村山には「中央(図書館」)と「秋津」にハンセン病と療養所「多磨全生園」に関するコーナーがあり、小中学生向けのブックリストも置いている。郷土が生んだ著名人として、志村けん(中央)、草野心平(秋津)、武満徹(廻田)のコーナーもある。 

 東村山の特徴として際立っているのが外国語資料の多さだ。小平の約7倍と群を抜いている。英語、中国語、韓国語の図書を集めたコーナーも「中央」入口付近にあり、「外国籍を持つ市民が増えていることを意識して対応している」という。

【清瀬】

 現在の6館のうち3館が3月末に閉館。閉館予定だった元町こども図書館は「当面存続」する。改修のため休館していた駅前図書館は4月に新装開館。老朽化した中央図書館は近くに建設中の複合施設に南部図書館として26年2月にオープンする。また地域市民センター内に設置する「市民サロン」に図書を備える。

 注目は4月から始める本の宅配サービスだ。来館困難者への宅配サービスはほかでもあるが、全市民対象は全国初。窓口やネットで貸出を申し込むと、宅配業者が自宅に無料で配達、返却する。館数の半減をこうしたサービスでどれだけカバーできるか。

【東久留米】

 市で唯一、全4館を指定管理業者(図書館流通センター=TRC)が運営している。制度導入で民間のノウハウと全国ネットワークを利用して「作家の角田光代さんら著名人の講演会など市の運営では実現できなかった催しができるようになった」という。公立図書館に広がる指定管理制度は耳目を集める企画が実現する一方、非正規職員の割合や離職率の増加による専門性の喪失など、検討すべき問題もはらんでいる。

 目立たなくても、市民が図書館で郷土情報を調べてウィキペディアの記事として世界に発信する「ウィキペディアin東久留米」などの企画は恒例のイベントとして根付いている。

【西東京】

 デジタルアーカイブが充実し、「なつかしの田無・保谷写真」パネル289点を貸し出している。地域資料(郷土及び行政資料)の点数が多く、茨木のり子や小林カツ代など西東京ゆかりの文化人とその関連資料を検索できるのはうれしい。

 また、ひばりが丘図書館には全国の原爆関連の資料を集めた「原爆小文庫」がある。1976年の開設当初から資料収集を続けて約4000冊に。今では入手困難となった貴重な資料も多い。職員が続けている関連新聞記事のスクラップブックは今年1月で177冊になった。

 5市とも近隣市の市立図書館と相互利用協定を結んでいるため、例えば小平市民だと、登録すれば5市のほか国分寺、立川、東大和、小金井各市の図書館を利用できる。西東京では武蔵野大学の図書館も利用可能だ(閲覧・複写のみ)。なじみ以外の図書館も一度のぞいてみてはどうだろう。

関連情報:
令和6年度東京都公立図書館調査

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By 片岡義博

共同通信社の文化部記者として主に演劇、論壇を担当。福岡編集部、文化部デスクを経て2007年にフリーに。書籍のライティングと編集、書評などを手掛ける。2009年から小平市在住。

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