3月29日行われた清瀬市長選は大方の予想を覆し、無所属で新人の原田ひろみ氏(50)=共産、社民推薦=が、再選を目指した無所属で現職の渋谷桂司氏(52)=自民、公明推薦=を破って初当選した。原田氏は共産党所属の清瀬市議の座を投げ打って出馬した。それも23年のベテランで、共産党としては乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負をかけたと言えばその通りだった。結果は全国で4人目とされる共産党籍を持つ首長の誕生だ。
決意をさせたのは何といっても同市の図書館問題だった。原田氏も出馬表明の際「図書館廃止反対運動などで示された市民の力を目の当たりにして、今回挑戦することに決めた」と述べていた。
しかし、本人も、支援者も、そして多くの市政関係者も原田氏の当選までを見通していたわけではない。渋谷氏は一般的に有利とされる現職再選を目指し、本人も陣営もよもや負けるとは思っていなかったに違いない。
何が「奇跡」を生んだのか。筆者(飯岡)はこの1年間、節目節目に清瀬市に出向いて取材したに過ぎないが、我が目に映った実像から考えてみたい。
■答弁を避ける市長
2025年2月3日、清瀬市議会は異様な雰囲気に包まれていた。通常はほとんど見られない傍聴者が議場に入りきれないほど詰め掛け、深夜にわたって激しい議論がたたかわされた。テーマは6つの市立図書館市のうち4つを、利用率の低迷などを理由に閉館する問題で、市民団体による住民投票の直接請求を認めるかどうかだった。
市民団体代表が意見陳述し「図書館の利用率は決して低くなく、市民の生活にも民主主義の拠点としても重要、子どもの居場所としても大きな役割を果たしている」「閉鎖の計画が唐突に出され、その後も市民の疑問に十分答えないまま乱暴に決められた」「ここで一度立ち止まって考え直すためのきっかけとして住民投票を実施してほしい」などと訴えた。
審議では、主に図書館閉鎖に関する計画立案から市議会での条例議決までのプロセスをめぐっての厳しい質問に対して市の担当者が答弁に苦しむ場面が目立った。審議の途中で閉鎖対象の1館を当面存続させる妥協案が示され、住民投票条例案は否決された。
この時が初めての清瀬市議会傍聴の機会だった筆者は議論の内容はともかく、ある風景に違和感を覚えた。それは議員がいくら答弁を促しても渋谷市長がほとんど答えようとせず、副市長以下の市幹部に任せる姿だった。「市長、お答えください」と再三追及していたのが当時の原田市議だった。
■鉄道ファンではありません
渋谷市政への批判の論点はほかにもある。中央公園の再整備に際して旧豪華列車「夢空間」を買い取り修復して設置した問題だ。「清瀬に縁のない車両を大金かけて設置する意味が分からない」「鉄道関係の視察が多すぎる」などとの声が上がっても、市は「にぎわいの創出が目的」と繰り返してきた。
筆者が渋谷市長の記者会見に初めて出席した2024年11月、夢空間について質問しようとして軽い気持ちで「市長は鉄道ファンと聞いてますが」と前振りしたところ、会見終了直後に渋谷氏が近寄り「別に鉄道ファンではありませんよ」と声を掛けられた。「何か気に障ったかな」と首をかしげたのを思い出す。


■「聞く」重要さ
渋谷氏は初代清瀬市長渋谷邦蔵氏の孫に当たり、小さい時から「将来の市長」と期待されていたという。本人も学生時代、公務員時代、市議会議員を通じて地方行政に並々ならぬ情熱と努力を注いできた。それだけに政策決定と遂行には揺るがぬ自信があったと推察される。告示前の討論会で原田氏が「トップダウンではいけない」と指摘したのに対し、渋谷氏が「トップダウンというのは何かの勘違いではないか」と言い返した場面があったが、自信の裏に落とし穴がなかったか。
前回4年前の市長選では渋谷氏が約1万5千票を獲得したのに対し、共産党推薦の対立候補は約8千票にとどまった。今回投票率が前回とほとんど変わらなかったのに渋谷氏が約4千票減らしたということは、前回渋谷氏に投票した相当数の有権者が離れたことになる。最近取りざたされるSNSの反応でも渋谷氏の不人気が鮮明に出ているという。総選挙で自民が圧勝した「風」がいかに移ろいやすいかを物語っているともいえる。
渋谷氏は選挙戦の第一声で「何か新しいことをやろうとすれば必ず反対がある。しかし決断しなければならないことはある」と述べた。そうならばなおさら形式だけでなく市民の声を聞き、説明し、丁寧にことを運ぶことが重要ではないか。それはこれから多難が予想される原田市政でも同じだと思う。
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