トークセッションするアーサー・ビナードさん(右)と木村学芸員(写真はいずれも国立ハンセン病資料館提供)

 国立ハンセン病資料館(東村山市青葉町)で開催中の企画展「ハンセン病療養所の中の外国人」の関連イベントとして、トークセッション「あなたの母語はなんですか?あえて日本語でものを書く人々を探る」が8月22日開催された。米国人の詩人、アーサー・ビナードさん(59)と同資料館の木村哲也学芸員がパネラーとなり、ハンセン病療養所に入所していた3人の外国人の詩や短歌を紹介しながら作品に込められた作者の思いや背景について約1時間半にわたって語り合った。

 ビナードさんは1990年に来日以来、詩人、絵本作家、翻訳家、エッセイストとして活躍する傍ら、ラジオパーソナリティとしてさまざまなテーマに向き合い、独自の視点で発信している。2023年3月にラジオ番組の取材で初めて同資料館を訪れ、その後たびたびハンセン病に関わるテーマを番組で取り上げて多磨全生園に入所しているハンセン病回復者へのインタビューも行った。

 この日取り上げた3人は群馬県草津町(現・草津温泉町)の栗生楽泉園に入所していた外国人で、ロシア人の詩人、コンスタンチン・トロチェフさん、朝鮮人(企画展で用いている朝鮮半島をルーツとする人々の呼称)の詩人、香山末子(本国名・金末任=キム・マルチェ)さん、同じく朝鮮人で歌人の金夏日(キム・ハイル)さん。3人はそれぞれ日本語で詩と短歌を創作している。

 ビナードさんと木村さんが交互に3人の詩や短歌を朗読しながら、なぜそれぞれの母国語ではなく日本語を用いたのか、その心情に迫った。ビナードさんは「母国から遠く離れ、療養という名のもとに隔離政策に取り込まれ『もう故郷にはおそらく戻れない』という切ない望郷感を母国語ではない日本語で表現し、故郷との距離感を強調したのだろう」と分析した。

 ただ、多くの短歌を日本語で創作した金夏日さんについては「あえて日本固有の短歌の形式をとることで半ば日本におもねりながら、決してついえることのない祖国への思いを歌に託している。この思いを裏返すと、日本社会への批判が浮かび上がってくる」と語った。

 木村学芸員は今回の企画展について「ハンセン病を発症して入所していた外国人らに対しては、『療養所にいられるだけで感謝すべきだ』とか、『文句があるなら帰国すべきだ』といった言葉も浴びせられていた。いわば差別の中のさらなる差別、複合差別です。このようなハンセン病の歴史の中に埋もれている事実を少しでも多くの人に知ってもらいたい」と話した。

 参加は事前予約制だったが、告知後まもなく埋まり、140席は満員となった。初めて同資料館を訪れたという東京都北区と神奈川県川崎市の20代の女性は「ハンセン病についてはほとんど知識がなかったが、入所者が作った詩や短歌に接して、彼らの思いや気持ちに近づけた気がした」「社会から受けた差別に加え、外国人だから受けていただろう制約の中で作った詩や短歌に胸を打たれた」と感想を話した。

【関連記事】

ハンセン病療養所の「外国人」テーマに企画展 東村山の資料館、朝鮮人入所者の闘い描く

Loading

By 関根英生

1961 年生まれ。2011 年から小平市在住。文化放送に 42 年勤務し、2026 年退職。報道番組やスポーツ番組の制作に長く関わってきた。2020 年に制作した「軍属ラジオ」でギャラクシー賞ラジオ部門大賞を受賞。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です