国史跡の玉川上水を分断する都道の建設前に現地視察と生き物や景観に関する総合的調査を都知事に求める署名活動を小平市の市民団体が進めている。地球規模で環境が激変し、生物多様性と自然保護の重要性が再認識される中、署名数は3万筆に達しつつあり、賛同人には多数の著名人が名を連ねる。近く要望書と署名を都知事に提出する。

 江戸時代初期の1653年に完成した玉川上水は江戸市中に飲み水を届け、水の乏しい武蔵野地域に農業・生活用水を供給してきた。1999年、都によって「歴史環境保全地域」に指定されるとともに「玉川上水景観基本軸」として、その水と緑の景観が守られることになった。2003年には歴史的価値を有する土木施設・遺構として開渠(かいきょ)部30キロが国の史跡に認定された。

 一方、高度成長期の1962年に計画決定された、多摩地域を南北に走る都道「小平都市計画道路3・2・8号府中所沢線」の小平市部分の建設が玉川上水を36メートル幅で分断し、隣接する小平中央公園の雑木林を大きく削り取ることが社会問題化。計画見直しの是非を問う住民投票が2013年に実施されたが、不成立に終わって計画通りに推進されることになった。

 2023年、地球規模の環境破壊を背景に都は生物多様性の保全と回復を進めて東京の豊かな自然を後世につなぐ「東京都生物多様性地域戦略」を打ち出した。玉川上水は市民団体の調査で500種以上の野草、84種の鳥類が確認されるなど都内の豊かな生態系を支えている。緑道は散策やジョギング、自然観察、遊び場として市民生活にとっても貴重な場となっており、その保全を求める声は絶えない。

 署名活動は近年、玉川上水周辺の自然や景観が損なわれていることへの危機感から始まった。署名を呼びかけているのは、「玉川上水みどりといきもの会議」(代表・高槻成紀)、「地球永住計画」(代表・関野吉晴)、「ちむくい」(代表・リー智子)。小平市など都内の21の市民団体が賛同し、賛同人には作家の池澤夏樹さん、椎名誠さん、島田雅彦さん、人類学者の山極寿一さん、解剖学者の養老孟司さんら多くの著名人を含む83人が名を連ねている。

 「生き物の宝庫、史跡・玉川上水を未来の子どもたちへ」と題した要望書では、玉川上水の「歴史的価値」「生物多様性の価値」「市民にとっての価値」を再認識し、市民と都が協力して未来の子どもたちに引き継いでいくことを訴えている。

 具体的な「都知事への要望」として(1)「景観基本軸」と「東京都生物多様性地域戦略」にのっとった玉川上水の調査(2)道路計画の現地視察(3)道路建設を進める前の(1)(2)の実現―の3点を求めている。

 署名活動は今年4月から始まり、その数はオンライン署名を含めて11月10日現在で29468筆。リー智子さんは「生物多様性がどんどん失われ、私たちは深刻な危機に直面している。署名活動は道路建設に反対しているのではなく、玉川上水が都にとってもいかに大切な財産かをまず知ってほしいという思いから進めてきた。このかけがえのない自然と景観を都と一緒に守っていきたい」と話している。

 問い合わせはリー智子さん=メール(satoko.lee@gmail.com)まで。

【参考情報】
・ちむくい(ちいさな虫や草やいきものたちを支える会
・【緊急署名】生き物の宝庫、史跡・玉川上水を未来の子どもたちへ(change.org

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By 片岡義博

共同通信社の文化部記者として主に演劇、論壇を担当。福岡編集部、文化部デスクを経て2007年にフリーに。書籍のライティングと編集、書評などを手掛ける。2009年から小平市在住。

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