写真展を開いた田中昭史さん

 小平市学園西町の写真家、田中昭史さん(77)の写真展「かつてそこには生活があった」が、6月29日まで東京・新宿で開かれている。田中さんが1970、71年に、長野県美麻(みあさ)村(現大町市)の暮らしにレンズを向けたモノクロ写真35点が展示されている。ゆかりがある人には懐かしく、今の人にとっても、半世紀以上前の日本の山村生活を振り返る貴重な記録でもある。

 田中さんは、信州大学4年の時、写真部の卒業制作として、当時社会問題化していた「過疎」に着目。廃校の宿直室に寝泊まりしながら、同村高地地区に通った。田中さんの取材によると、同地区には、明治、大正、昭和初期と100世帯前後が17カ所に点在し、麻の栽培などして生計を立てていた。

「長野県美麻村高地地区の記録 1970/71」から

 日本敗戦後の1960年に79戸(429人)だったのが、10年後は17戸に激減、80年代には住民がいなくなった。その要因として田中さんは、県道の開通をあげる。文化的な暮らしや子の教育、より高い収入などを人々は追い求める。「日常は15キロほど離れた市街地で暮らし、日中は農地に戻って農作業することが可能となった。地域が便利になるほど離村が進んだ」という。

 子どもの書道作品や生まれた子の名前が書かれた半紙が壁に張られたままの「廃屋」、破れた障子戸に立つ子どもたち、囲炉裏の鉄瓶でお湯を沸かす住民、段ボール箱を手に下げて路線バスを降りる人など、作品からは当時の山村の暮らしが垣間見える。写真部員4人で撮影を続け、1971年、長野市の卒業展で発表した。

「長野県美麻村高地地区の記録 1970/71」から

 田中さんは2001年から2017年に武蔵野美術大学非常講師を務め、作品には写真集『多摩景』『秩父風景』がある。フィルムの保管などの問題で今回は田中さんの作品1000点から35作品に絞った。田中さんは「かつて人々が生活していた山村の記録として見てほしい」と話している。

 6月29日まで(正午~午後8時)。新宿区新宿2丁目16―11―サンフタミビル4F フォトグラファーズギャラリー(03・5368・2631)で。入場無料。写真記録冊子(A4判変型、44ページ、税込み1500円)を販売中。

写真記録冊子

 

 

 

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By 吉井亨

元新聞記者 東京、北海道、九州のほか、群馬を除く関東5県などで取材。卒業後は日本語教師も。

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