井戸を活用したコミュニティー再生を進めている西東京市東町の廣田郁子(ひろた・いくこ)さんの自宅庭で12月20日、定期イベント「廣田さんちの金曜パン」が開かれた。この日は新しく完成した井戸を披露。能登の塩を使った手作りパン、手作り菓子、あったかシチュー、雑貨などが並び、絵本を貸し出したり、干支にちなんだお正月飾りを販売したり。庭のゆずの樹から実をもいで参加者に配るなど、にぎやかな日になった。
■新しい形の井戸端をつくりたい
毎月第4金曜日に開催されるこのイベントを主催しているのは廣田さんの娘、菊池ゆかりさん。今年最後のイベントとなるこの日、披露された井戸は地下26メートルまで重機で掘削して20メートルの配管を通し、手押しの井戸ポンプを取り付けた。近所の子どももかわるがわる手押しで水を汲み出していた。
「この家が建って60年以上経つ。井戸はあったけど、水道が通るようになっていつの間にか井戸は使わなくなった」と廣田さん。「井戸を掘ろうと思ったのは、井戸の再生を通じて大人も子どもも安心して集まれる場がほしかったから」と菊池さんは言う。
実は2年前に自宅裏の古井戸を再生したことがある。9メートル掘って水が出た。市から「震災用井戸」として指定ももらった。そこで子どもたちが水遊びをしたり、藍染めなどを楽しんでいたが、やがて水が出なくなった。
そのため今回はもっと深く掘ろうと費用をクラウドファンディングで集めた。目標額には届かなかったが、掘る場所を庭に変え、ようやく今日を迎えることができた。
菊池さんは「井戸端会議という言葉があるけれど、ここは新しい形の井戸端、コミニュテイーの場所。居場所であり防災の場所でもある。停電しても使えるようにと手こぎの井戸にした。それならトイレや風呂、洗濯などの生活用水に使えます」と話す。
■人とのつながりを紡ぎ直す
自宅の庭で人が集まる居場所をつくりたいと思ったのは、菊池さんの夫が亡くなり、実家に戻ったら近所は知らない人ばかりになっていたことがきっかけだった。自治会もなくなった。ちょっとおしゃべりする場所もない。高齢の母親との2人での暮らしをこれからどうするかと考えた時、人とのつながりを紡ぎ直すことが大切だと考えた。
居場所づくりを始めたのは2020年春。ちょうどコロナ感染が急激に広がった時期だったが、自宅の庭とガレージを開放して「SHARE WELL Hironta 廣田さんちの金曜パン」と銘打って小さなイベントを開いた。
季節を感じるイベントを月1回定期的に開いて、夏にはかき氷、寒くなると温かいものを出す。いろいろなつながりができた。パン作りしている友だちがいたので「金曜パン」とした。野菜を作る人、工作が好きな人、時には高校生たちも参加する。役所の職員も顔を出す。ここでつながりや縁が増えていく。そうすれば、いざという時、そのつながりが生きてくる。
「親睦を深めるためにも井戸がほしかった。井戸はコミニュテイーのランドマークです。もしもの時のつながりは井戸端会議から始まると実感しています」と菊池さんは話している。
新しい年が明けて1月30日と31日は2本立てイベント。30日の午後2時から4時には井戸をモザイクアートで飾る。31日はいつもの「金曜パン」で、この日はお汁粉も振る舞われる。
また、井戸を掘る様子が1月5日、テレビ朝日の情報番組「スーパーJチャンネル」で午後5時30分~6時の間に放映される。5分ほどの予定だが、ぜひ見てほしい。
【参考情報】
・集え井戸端!廣田さんちの井戸掘大作戦(CAMPFIRE)