2024年も押し詰まった師走のある日、東村山市栄町の八坂神社社務所内集会所が地元の約80人で埋まった。同市出身の落語協会真打、柳亭こみち師匠による17回目の独演会「八坂いやさかこみちの会」だ。古典落語「元犬」「二番煎じ」の2題と歌などでたっぷり1時間、会場は笑いと拍手に包まれた。
こみち師匠は小中学生時代を東村山市内で送り、大学卒業後いったん出版社に勤め、2003年落語家に転じた。女性はまだ珍しかった。さらに落語家を続けるのは至難といわれる中で、今は毎日の高座を務める一方、小学生の男の子2人のお母さんでもある。
女性落語家として結婚し、二児の母親で真打に昇進したのは初めて。東京都内に4つある寄席の定席すべてでトリを務める希少な落語家である。
全国を飛び歩く今を時めく師匠だが、地元愛は格別。八坂神社での半ばプライベートな公演会の4日前には、東村山市制60周年記念公演会で「主任」を務めた。切れのいい語り口に加えて日舞名取の踊り、歌など多芸多才ぶりが観客を魅了してやまない。
落語が描く世界にごく自然に入り込んだという柳亭こみち師匠に話を聞いた。
―子どもの時から人を笑わせた?
「保育園児のころからちっとも変わらない、と人に言われます。そのまま大人になったみたいだと。会社を辞める時も『落語家になる』と言ったら全然驚かれませんでした」
―落語との出会いは?
「出版社に就職後、誘われて寄席に行き、そこで故柳家小三治の落語を聴いて面白さで雷に打たれたようになり、小三治の弟子である七代目柳亭燕路に入門しました。もともと演劇は好きで、踊りをしていたこともあって伝統芸能には興味がありましたが、落語に登場する人物や生き様に魅了されたんです」
―出産や子育てとの両立は大変だったのでは?
「修業のピークと出産とは時期が重なることもあり、それはそれは大変だった。いろいろな人に助けてもらいながら頑張った。でも芸人として生き、家庭を持つことは私の中でつながっている。人間として自然のことだと思います」
―女性として得だったな、と思うことは?
「やはり覚えてもらいやすいことですね。それと、女性の落語は未開で、手つかずのテーマが山とあるんです」
―取り組んでおられるという「こみち噺(ばなし)」とは?
「登場人物を女性に置き換えて活躍させる落語です。例えば有名な古典落語の『井戸の茶碗』では、浪人が亡くなった設定にし、その未亡人に主役を置き換えています。かえってその方が自然だったり、お客さんに受けたりするんです。『そんなの古典落語じゃない』と言われたとしたら自分の演じ方が未熟なんだと考えるようにしています」
―今後の目標は?
「名跡を襲名したいとは思っていません。生きているうちに一席でも多く自分らしく、お客さんの心に届く噺をすることだけを考えています。古典落語でも、これまで演者が男性だったために女性の登場人物が出にくかったと思う。でも、こんな女性がいたかもしれないというのをあくまでも古典落語の中で描いていきたい」
―最後に東村山に対する思いをお願いします
「何といっても自分が生まれ育った東村山で落語をやり、お客さんを大事にして地元を盛り上げたいという思いは強い。いろいろな所から集まって住んだ人が多いかもしれないこの地域でも、その2世にとっては古里に間違いない。『東村山大好き』と言う同世代の友達はいっぱいいます」
【関連情報】
・こみちの路(Web)