東村山市立小中学校の教職員が児童や生徒の個人情報を記載した名簿を保護者に無断でPTAに提供したのは地方公務員の職務範囲を逸脱しており違法として、保護者の1人が小中2校の校長を相手取り損害賠償を求める訴訟を東京地裁立川支部に起こしたことが、6月17日わかった。不適切なPTAの運営が各地で問題化しているが、個人情報の取り扱いをめぐって訴訟に発展するのは異例で全国の教育現場に波紋を広げそうだ。
訴えを起こしたのは、東村山市立の東村山第三中学校と東萩山小学校にそれぞれ通う兄弟の父親。
訴状などによると、父親が両校のPTA活動について疑問を覚えたのは今年4月。PTAは任意加入の団体にもかかわらず、入会同意の確認なしにすべての保護者を自動的に会員として取り扱ったうえ、保護者の同意なくPTA に児童・生徒の氏名・学級・兄弟姉妹関係などの個人情報を記した名簿が提供されていた。
父親が東村山第三中の保護者会で確認したところ、教員は学校側からPTAに名簿を提供したことを認めた。5月の東萩山小PTA総会では現状の運用に法的問題があることを指摘したが、PTA側は「(名簿提供は)保護者への事後承諾で済まそうとした」などと返答。東村山市教育委員会にもメールで複数回問い合わせたが、「事実を確認中で、問題があれば是正するよう指導する」との回答にとどまっていた。
訴えでは、学校職員にPTA活動をさせたり個人情報を提供させたりすることは、公務と無関係な私的団体活動への不適切な関与に当たり、地方公務員としての職務の範囲を逸脱している。是正措置を講じなかった両校の校長は、地方公務員法第32条(法令遵守義務)と第33条(信用失墜行為の禁止)に違反する、としている。
父親は「個人情報の不適切な取り扱いやPTA任意加入原則の侵害により精神的苦痛を被った」などとして名簿を提供した学校の校長を5月16日に提訴。損害賠償額は「違法な運用および管理責任の放棄に対して象徴的意味を込め」て「1円」とした。7月28日に第1回口頭弁論が開かれる。

東村山市教委によると、今回指摘を受けた両校は、氏名・学級・兄弟姉妹の学級名などが記載された名簿を提供したり閲覧させたりしていた。はなこタイムスの取材に対して同市教委は「本人の承諾がない状態で名簿の提供があったことは好ましい状況にない」と説明。訴訟については「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。
PTA活動をめぐるトラブルは全国で相次いでいる。子どもや保護者の個人情報を学校が本人たちの同意なくPTAに提供していたことが長野県や埼玉県白岡市で問題化。保護者が校長を相手に地方公務員法違反(守秘義務違反)の疑いで刑事告発するケースもあり問題は深刻化している。
今回提訴した父親は「個人情報の提供は本人たちの同意をきちんと取り付けた上で行うことが必要だ。訴訟はPTA活動そのものを決して否定するものでなく、敵対することも目的ではない。全国各地の類似した問題に対して警鐘を鳴らす意味を込めて提起した」と話している。