思春期の女子のメンタルヘルス(心の健康状態)が近年急速に悪化し、男子との差が拡大している――。小平市の国立精神・神経医療研究センター(NCNP)などの研究グループは9月30日、そんな研究成果を発表した。「若者自身の声を反映させながら、社会全体の連携による包括的な対応が求められる」と警鐘を鳴らしている。
思春期の若者におけるメンタルヘルス問題は世界各国で深刻化している。120万人以上、43カ国の思春期のデータを用いた国際調査によると、女子のメンタルヘルスの悪化によって、心の健康の男女間格差が拡大している。この格差は特に「ジェンダー平等度が高い国」で拡大しており、これは男子のメンタルヘルスが改善したからではなく、女子の症状が悪化したためだという。
今回、NCNP、東京都医学総合研究所、東京大学の共同研究は、厚生労働省の統計を基に、20歳未満の女子の自殺者数が2024年に男子の自殺者数を初めて上回ったことを指摘した(図1)。女子430 人・男子370人で、10年前の男子373 人・女子165 人という男女比の状況が逆転し、日本でも国際的動向と同様の傾向が裏付けられた。

研究グループは「女子のメンタルヘルス悪化は社会的要因と強く結びついている」として、先行研究や若者たちとの議論から、いくつかの要因を挙げている。
▽女子は伝統的な性別役割だけでなく、学業や社会的成功も求められている。特に学校関連のプレッシャー増加は女子で顕著になっている。
▽SNSを含むインターネットの不適切な使用(学業・人間関係・睡眠などに支障が出る、使い始めるとやめられない、など)は、男子よりも女子にメンタルヘルス不調のリスクを高める。
▽女子に対する性的嫌がらせ・性暴力がオンライン空間でも深刻化している。
▽思春期女子における「やせ願望」が急拡大している。
▽女子の思春期が早期化している。
こうした複数の要因が複合的に関与している可能性があるという。研究グループのNCNP精神保健研究所・行動医学研究部の成田瑞室長は「示唆された要因を厳密に検討し、科学的根拠に基づいた予防策や支援策につなげていく必要がある。これ以上、女子が一人で苦しむことのないよう根本的な問題の解決に取り組まなければならない」と問題提起している。