北多摩北部における戦後のトピックをまとめた書籍『北多摩戦後クロニクル』の執筆者ら3人を迎えた刊行記念トークイベントが6月30日、ひばりが丘団地のコミュニティセンター「ひばりテラス118」(西東京市ひばりが丘3)で開かれた。参加者を交えて執筆の裏話や地元に対する思いを語り合った。(カバー写真:本を手に感想を語る参加者)

■三人三様のトーク

 『北多摩戦後クロニクル〜東京郊外の歴史を探る』(言視舎)は2023年に地域報道サイト「ひばりタイムス」が連載した記事を収録。清瀬、小平、西東京、東久留米、東村山の5市を中心に戦後約80年のニュースや話題50トピックを地元在住の記者経験者や編集者が執筆した。3月末の刊行以来好評を得て各メディアが取り上げ、6月には早くも増刷となった。

 トークイベントを主催したのは、ひばりテラス118を運営する一般社団法人「まちにわ ひばりが丘」。事務局長の若尾健太郎さんがファシリテーターを務め、会場では執筆した飯岡志郎さんと片岡義博さん、そして「ひばりタイムス」編集長の北嶋孝さんが参加者とリラックスした様子で向き合った。

 執筆のきっかけについて、片岡さんは「共同通信社の報道写真集『ザ・クロニクル 戦後日本の70年』の北多摩版を思いついた。でも書籍になるとは全く思っていなかった」と話す。書籍を5市の公立・私立の中学校43校と高校22校に1部ずつ寄贈したという。「そんなに売れるとは思わなかったので、余るともったいないな、と思って(笑)。地域で学ぶ若い世代が地元に興味を持ってもらうきっかけになれば」

 旧保谷市で生まれ育ったという飯岡さん。「通勤に便利だと思って今の東村山に居を構えたが、通信社に勤めていた頃には地元のことなど全く知らなかった」と話すと、参加者がしきりにうなずく。「関心のあるトピックから拾い読みができる。この本が地元を知る入口となればと思う」と続けた。

 「地元への愛着」に話題が及び、北嶋さんが「西東京市の歌があって『大好きです、西東京』というんだけど」と切り出した途端、会場にどっと笑いが起きた。「大好きかどうかは人それぞれ」との言葉にみんなが相づちを打つ。「安心できる書き手ばかりだから僕は記事を書かないことにした」。10年間、議会や市政の動きを注視し、住民の関心事を伝え続けた北嶋さん。「《保谷町が全国一斉学力調査を中止》の記事が印象に残っている」という。

 取材の醍醐味について「調べていくと発見の連続。興味がどんどん広がる。例えば《原子核研究所が田無に開設》の記事では、ノーベル賞受賞者の名前が何人も出てきたり、オッペンハイマーが来訪していたり、地元にこんな歴史があったのかと驚いた」(片岡さん)。

 「本やインターネットで調べ、あらかじめ予想して取材に出向くが、実際に人に会い、現地を訪ねてみると、思いがけない話が聞けたり事実がわかったり。イメージと違うところに流れ着くことがある」(飯岡さん)。丁寧な取材ぶりを聞いて、参加者も納得のいく表情だった。

■地域の歴史を知る意味

 参加者は事前に申し込みをした14人。旧ひばりが丘団地のエリアの住人、地域の報道を担うメディア関係者、市役所職員、「ひばりタイムス」の市民ライターの姿も。それぞれが感想を語った。

 「この本を読んで、あらためて田無には理系の施設が多かったと認識した」(「多摩六都科学館」統括マネージャーを長く務めた廣澤さん)

 「長く住んだ所から、ここに(ひばりが丘)越してきて、さてこれからどうして地元を知ろうかと思っていたところ。本が発売され、すぐに買った」「不動産屋に勧められたのだが、西東京市がどこにあるかそれまで知らなかった」「これから地元を歩いてみたいと思った」など新しく住民となった人の発言も聞かれた。

 「都心で仕事をし、地元に愛着が持てないでいたが、地域にすてきな人がいることがわかってくると気持ちが変わってきた」と話したのは、地域の活動や四季折々の風景を紹介する記事を「ひばりタイムス」で発表してきた卯野さん。現在は「はなこタイムス」で同様の活動をしている。

 「もし続編をつくるとしたら?」という質問に対して「地元の人物に焦点を合わせた『人物版クロニクル』なんてどうか」というアイデアに期待を込めた拍手が起こった。

 イベントを終えて若尾さんは「地域の歴史を知ることで地域に対する新たなレイアーを持つことができたし、みんなにも持ってもらいたい。この本を多くの人に知ってもらいたいと思い、トークイベントを企画した。本への共感、場への共感が生まれたことがよかったと思う」と語った。

【関連情報】
・北多摩戦後クロニクル(言視舎

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By 渡邉篤子

ひばりが丘在住約30年。音楽教室講師の傍ら公民館などで音楽講座の講師を務める。ひばりが丘でエリアマネジメントをする民間団体「まちにわひばりが丘」のボランティアチーム「まちにわ師」2期生。コミュニティーメディア「AERU」担当。

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