立秋をすぎても暑い!自転車を漕ぐ手の甲や腕に当たる直射日光が痛いくらいだ。台風一過の炎天下、8月17日(土)小金井市立貫井北センターで開催された「死生観を語り合うひととき」に参加した。

◾️どせばいい?カード

 青森県の特別養護老人ホーム「三思園(さんしえん)」が作成したカードゲーム「どせばいい?カード」を用いて対話をするワークショップだ。人生の最期にどんな医療やケアを望むのか「どうしたらいい?」と楽しく語り合うために開発されたカードだ。三思園の看護師長である高橋進一さんが、ゲームの説明と進行役のために青森から駆け付けた。

 50枚のカードには、津軽弁と標準語で望みが書かれている。4人で順番に場にあるカードから自分の希望にあったカードを選び、最初に配られた5枚の手元のカードと交換していく。場のカードが無くなるまで交換をくりかえし、終末期になにを望むか、自分の願いに沿うカードを集めていく。

 ゲームと言えど、自分の死や最期を考えるとあり、参加者は固い表情だった。高橋さんから「これはゲームです。楽しく遊びましょう」との声がけがあり、緊張が一気に緩んだ。

 「痛いのは嫌」「延命治療はしなくてもいい」「最後まで病院で最良の治療を受けたい」「残された時間を家族と過ごしたい」など、人それぞれの希望がある。しかしそれらを言葉にすることは簡単ではない。「死」について話したりするなんて縁起でもないと思う方も多いはず。カードを使うことで、自分の最期について考え、語り、分かち合うことが出来るような仕掛けになっている。

◾️ゲーム開始

 「余命6カ月としたら、どせばいい?(どうしたらいい?)」という設定でゲームを開始。自分が最期の6か月という期間、何を大切にしたいかを考えながらゲームは進んだ。深刻になりがちな思考も、親しみやすいイラストと、たどたどしく読む津軽弁とが「死」のネガティブなイメージを和らげてくれた。

 このカードの特徴は、一人称「私」の命があと6か月だったらという設定と、二人称「私の大切な人」の命があと6か月だとしたらという2つのパターンでゲームを体験できることだ。

 自分の最期に大切にしたいことと思う手札も、大切な人の最期と置き換えたら、必ずしも同じとはいえない。参加者の一人は「『最期はひとりになりたい』と思っているが、大切な人を『ひとりにしてあげたい』とは思えない」と語った。

 「尊厳を保ちたい」といカードが出た時は、「尊厳ってなんだろう」「どうしたら尊厳を保てるのだろう」とみんなが考え込む場面も見られた。カードも一通りではない多様な解釈ができるように作られている。望みの実現のためにどんなことができるのか、具体的な事例を考えるきっかけにもなった。

 プレー中には最高の5枚を集めたと思っていても、そのどれか1枚を手放さなければならない。なにかをトレードオフしないと実現しなかったり、なにかを手放さないと手に入れられなかったり、優先順位で何かを諦めざるを得ない状況もあったりと、まさに人生そのもの。

 ゲームの終わりには、集めた手札の5枚からさらに3枚に絞り、なぜその3つの望みを選んだのかをグループ内で共有した。それらは今、大切にしたい3つだが、状況が変わればあるいは時が経てば違う望みが選ばれるかもしれない。

 一度限りではなく、時や設定を変えてプレイすることで、その時その時の望みが確認できるというわけだ。「自分の意向と家族の意向をすり合わせることも大切だなぁと感じました」と同じグループの女性は話した。

◾️つどい、かたり合う場

 小金井市立貫井北センターは「NPO市民の図書館・公民館こがねい」が運営する。「お話し会」や「こども哲学」「ビブリオバトル」「恋活読書会」「青少年教育講座」など、多数のイベントを開催している。「『生』と『死』を絵本で語り合うデスカフェ」はNHKTV「あしたも晴れ!人生レシピ(7月26日放送)」で取り上げられた。現在「若者による自主講座企画」も募集中だ。イベントの参加対象者は、幼児から小学生、年配者まで幅広い。

 公民館と図書館は、どちらも地域の様々な人々をつなぐ交流の場となることを目指している。図書館には小さなお子さんと靴を脱いでくつろげる空間もある。折々にテーマを設け関連図書を掲示するなど、いつ訪れても新たな本との出会いがあるように工夫されている。

 イベントを企画した小金井市立図書館貫井北分室長の田中肇さんは、長年公私ともに「つどい、語りあう場」を作ってきた。「東日本大震災後は、とくに思いを語りあえる場が必要になった」と言う。人々から湧き出る思いをすくいあげ「対話カフェ」、「デスカフェ」「グリーフケア」と場を広げてきた。また時代を反映して「ジェンダー」についても取り上げている。テーマは様々だが「生と死」そして「人生」について語りあうことは共通する。

 「終わりをどう迎えるかは、終わりの日まで自分がどう生きていくかということ」 ― 参加者が発した言葉に会場のだれもが深く頷いていた。

【関連情報】
・どせばいい?カード(公式サイト
・第5回死生観を語り合うひととき(小金井市立貫井北センター
・対話カフェ Tokyo~Yokohama(公式サイト

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By 卯野右子

西東京市新町在住。会社員。仕事の傍ら「アートみーる」(対話型美術鑑賞ファシリテーター)「みんなの西東京」「放課後カフェ」の活動に参加。東京藝術大学で「アート X 福祉」をテーマとしたDOORプロジェクトを履修。2019年より3年間、東京都美術館のとびラーとして、2022年からはアート・コミュニケータとして、人と人、人とアートをつなぐ活動に携わる。

2 thoughts on “カードゲームで「終わり」を考える 小金井市立貫井北センターの多彩な活動”
  1. 家族同士で、万が一の時について、話し合うことが、苦手な日本の文化。思いやる文化は、話さなくても、心とこころが通じていると思い込んでいる節がある。
    今は、医療の進歩が、人任せにできなくなってきた。喫食不可、呼吸停止、心停止、本人の意向確認ができなけば、救急医療では、フルコードといい、無益と思われる治療を続ける。
    命ではなく、いのちを考えることが求められる時代に、何ができるかを追い求めたい。

    1. 高橋さま、長く現場に携わってこられたからこその知見、そして広く深い考察・洞察から生み出されたカード、ご紹介くださりありがとうございました。これからたくさんカードでプレーしてみます。そして、心とこころ、命といのちについて、多くの方とともに考え語り合っていきますね。

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