講演会には約50人が参加。「今昔マップ」などの解説に聞き入った

 西東京市図書館は12月14日、洪水・水害対策を考える講演会「地形と地図を読む ―ハザードマップへの応用―」を南町の田無公民館で開催した。

 講師の原芳生・大正大学名誉教授は、自然環境の地域的差異について考える自然地理学が専門。長く旧保谷町・市に住み、田無市史編纂のため市内の気候調査も行った。1966年の水害では上保谷(現住吉町)の自宅が床上浸水した経験もある。この日の講演では、地図などをもとに市内の地形を解説し、ハザードマップの見方や活用法をアドバイスした。

 原さんは、「地図を読めば、記号などからいろいろなことがわかる。たとえば等高線は高低、傾斜の緩急を読み取ることができる地形の設計図のようなもの」と説明。水害は地形によるところも大きく、武蔵野台地に位置する西東京市は南西部から北東部に緩やかに傾斜しており、最も高い芝久保3丁目(標高67メートル)と、最も低い下保谷3丁目(同46メートル)で標高差は約20メートルになるという。また、石神井川などの谷となる部分や、散在する窪地、洪水時に水をためる調整池といった個所も写真を交えながら紹介。西東京市が作成し、会場で配布された「浸水ハザードマップ」を見ながら浸水の危険性にふれた。

 ハザードマップは、自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で作成され、国が定める基準の値(総雨量690ミリメートル、時間最大雨量153ミリメートル)が西東京市域に降った場合を想定。予想される浸水区域や浸水深、避難所、避難行動判定フロー、裏面には警戒レベルや西東京市のタイムライン(事前防災行動計画)、非常時の備えといった情報が掲載されている。

 西東京市では2015年に最初のハザードマップ作成以降、改定を重ね、会場で配られたのは最新の24年11月版。マップ上に色分けされている「浸水深の目安」は当初4段階だったが、調査や測量の進化もあり、22年版に「0.1~0.5ミリ未満」から「5.0メートル以上」までの6段階になったという。

 また、防災対策の参考として、原さんは、国土地理院が日本の国土の様子を発信するウエブ地図「地理院地図」、全国59地域について明治期以降の新旧の地形図を切り替えながら表示できる「今昔マップ」も紹介。地理院地図は、自分でいろいろなタイプの地図も作れて、地域の詳細な高低差や防災地理情報もわかる。今昔マップは、1906年や45年など往時と現在の市内の地形図が比較でき、ハザードマップでは表現しきれない本来の地形、土地の成り立ちを知るのに役立ち、「一日中楽しめます」。

 こうしたツールを利用しながら、原さんが勧めるのが、「実際に自分で地域を歩いて、地形などを見ること」だ。かつて大雨の時に水が流れ、現在はふたがされて暗渠になっている川や、調整池の運動場、家の近所の道路の傾斜などを実際に見て確認することで、「雨が降ったらどの道を通るかとか、家のあたりはハザードマップで色がついている、あるいは色はついていないが低くなっている個所があるから注意しようとか、ご自分で判断することが必要」と説いた。

 そんな街歩きの参考になるというのが、NHKで放送されていた「ブラタモリ」(来春から復活!)。地域の地理情報を知ることができる番組として、日本地理学会から表彰もされたというが、「身近な地理を知ることは防災対策にも役立つ」とも。

 実際、講演会には「ブラタモリ」のように地域を歩くのが好きだという60代女性も夫婦で参加していた。「2年半前に小平市から引っ越してきましたが、向台運動場(向台町)が調整池で、ただの運動場じゃないとか、石神井川とか具体的な地形の説明や昔の地形図も知ることができて貴重でした。今後の街歩きの参考にします」と話していた。

 市作成の浸水ハザードマップは、市のウエブサイトで閲覧できるほか、関係施設で無料配布もされている。原さんは、「自分の身の回りのことは自分で調べないとわからない。西東京市だけでなく、他の市に住む方も地域のハザードマップや市史なども活用して防災対策に役立ててほしい」と話していた。

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By 倉野武

1961年、東京生まれ。20年前から西東京市在住。新聞社で30年以上の取材経験があり、近年は地域への関心を高めている。趣味は西東京市のいこいの森公園でのランニング。

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