無罪確定を報告する「無実の死刑囚・袴田巌さんを救う会」の門間幸枝副代表(右端)=2024年10月26日、清瀬市のカトリック清瀬教会で(小石勝朗さん撮影)

 東京都府中市のジャーナリスト、小石勝朗さん(61)が、『袴田事件 死刑から無罪へ』(現代人文社)を出版した。1966年、静岡県清水市(当時)で一家4人が殺害された事件で強盗殺人罪などに問われ、死刑が確定した元プロボクサー袴田巌さん(88)。2024年9月、無罪が言い渡された。「58年の苦闘に決着をつけた再審」が副題のドキュメントだ。

 小石さんは、事件に疑問を持ち、2018年に『袴田事件 これでも死刑なのか』(同)を出版、「冤罪をうかがわせる」と、死刑への疑問を投げかけた。新著は9月の無罪判決を受けての出版。清瀬市のカトリック清瀬教会を主会場に袴田さんを長く支援してきた「無実の死刑囚・袴田巌さんを救う会」では、「裁判の動きを詳しく記録している」と評価している。

 小石さんは、日本経済新聞や朝日新聞の記者を経て48歳のときフリーランスに。静岡に勤務していた2006年、プロボクシング界が袴田さんの支援に改めて乗り出すという動きを取材したのが、袴田事件にかかわるきっかけだ。事件発生時の「袴田さんに対する犯人視報道」も知り、取材を続ける気持ちが固まった。

 発生から半世紀以上が過ぎ、事件のことを知らない人も増えた。著書では、裁判を通じて事件の問題点を探り、潔白が認められるまでの経緯を紹介するよう努めた。裁判の内容を中心に、社会の動きも合わせて検証。当時の捜査の問題点も浮き彫りにし、「記録集」としての価値も意識した。

 再審が始まった2023年からは、審理が静岡地裁に移り、公判のたびに泊りがけで静岡に通った。袴田さんや姉の秀子さん(91)の素顔にも触れ、表情の変化も感じた。ウェブサイト「刑事弁護オアシス」などで発信を続けてきた。小石さんは、「『死刑冤罪』を受け、社会が何にどのように取り組むべきなのか、自分たちの問題として考えていきたい」と話す。

 東村山市の門間正輝さん(73)、幸枝さん(83)夫妻は、救う会代表、副代表として無罪を訴えてきた。カトリック清瀬教会で年に2、3回公開学習会を開き、判決の問題点を訴えた。無罪確定を受けて10月、同教会での公開学習会に招かれた姉の秀子さんは、「(西武池袋線)清瀬の駅を降りたら皆さんから声をかけていただきました。懐かしいというか、ありがたかった」と謝意を述べた。副代表の幸枝さんは、「(小石さんは)学習会にも熱心に参加され、事件を追い続けてくれた数少ないジャーナリストのひとりです」と話している。

【関連情報】
・『袴田事件 死刑から無罪へ』(現代人文社
・『袴田事件 これでも死刑なのか』(現代人文社
・刑事弁護オアシス(Web
・日本プロボクシング協会(Web

Loading

By 吉井亨

元新聞記者 東京、北海道、九州のほか、群馬を除く関東5県などで取材。卒業後は日本語教師も。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP