イベントでスタッフとして地域の人と触れ合うマシューさん(右端)

 米国・ニュージャージー州出身のマシュー・マイルズ(Matthew Myles)さん(28)は「日本の団地」を研究中の早稲田大大学院生だ。2024年1月から西東京市、ひばりが丘団地内のひばりテラス118にある「まちにわ ひばりが丘」でボランティアをしながら研究を続けている。団地で開くイベントではスタッフとして働き、まちにわ ひばりが丘の事務所でパソコンに向かっている姿は住人たちにもおなじみになりつつある。

「外国人の学生さんがなぜ団地の研究?」と首をかしげる人は多い。団地住人の1人である筆者が皆さんを代表してインタビューした。

武庫川団地にびっくり

 ─ 日本に来て5年ぐらいとのことですが、早稲田に入るまではどこに住んでいましたか?

 「京都など主に関西に住んで、英語の先生などをしていました」

 ─ 団地の研究をするようになったのは、団地に住んだからですか?

 「そうです。兵庫県の武庫川団地(UR都市機構)に3年間住みました」

 ─ 大きな団地ですよね。それでびっくり?

 「日本じゃないみたい。高い建物が何棟もあって驚きました」

 ─ 印象的な出来事がありましたか?

 「ちょうどお盆の時に引っ越し、その翌日にお祭りがあって200人ぐらいの人が踊ったり、お店が出ていたり、賑やかで不思議な感じがしました。すごいコミュニティかもしれないと思いました」

 ─ いきなり盆踊りやお祭りを体験したのですね。その他にも記憶に残っていることがありますか?

 「毎月1回くらいマルシェがありました。フードトラックが来たり、雑貨を売ったりしていました。食べに行ったり、買い物をしたりしているうちに隣の人と仲良くなりました。あと、割と大きな広場がありました。そこで住民とあいさつをして、話をしました」

 ─ パブリックなスペースがあったことで住民と出会えたのですね。

 「そうです。そうです。みんな優しくて、仲良しになりました」

 ─ 住民にとっても興味を引く人だったでしょうね。アメリカにいるときから日本語を勉強していたのですか?

 「アメリカでは中国語を勉強していたので漢字に親しみはありましたが、日本語は日本に来てから、関西で勉強しました」

 ─ 少しでも日本語を話せると住民も安心したでしょうし、逆に英語で話しかける人もいたのでは?

 「英語の練習をしたい人もいました(笑)」

 ─ そういう中で「団地って面白いな」という気持ちが出てきたのでしょうか?

 「そうですね、共感を持ちながら過ごしました。他の住宅地より団地の方が、住人が協力できることを見つけました」

 ─ マシューさんが育ったニュージャージーでは団地のようなコミュニティはないのでしょうか?

 「車社会で、戸建ての家に離れて住んでいる感じで、日本の自治会のような活動もないので、団地のようなつながりはないです」

地図を通しコミュニティアイデンティティを考える

 マシューさんは2024年の夏、まちにわ ひばりが丘の依頼で「ひばりが丘防災マップ」を作った。旧ひばりが丘団地のエリアとその周辺の広域避難場所、避難広場、避難施設、福祉避難施設に加え、病院、交番、井戸など、いざという時に役立つ情報が一目で分かる。色覚異常の人にも配慮した力作だ。

ひばりが丘防災マップ

 ─ 防災地図を作っていただきましたが、感想は?

 「この地図を作るためにひばりが丘パークヒルズ・団地自治会やスターハウスにあるURの管理事務所に行きました。防災に詳しいわけではありませんが、個々の防災とか、地域の防災とかいっぱい勉強しました。情報収集していく中で、この団地に対する愛着とかコミュニティアイデンティだけではなく、広く社会的な問題へと意識が高まりました」

 ─ マシューさんの研究は「愛着」や「コミュニティアイデンティティ」というものを地図づくりを通して調べる、ということでしたね。どんな方法ですか?

 「そうですね。例えば住民に特別な場所、大事な場所を紹介してもらい、地図に表していきます。みんなの意見が表せますので、価値観や憧れているものを解釈することができます。コミュニティアイデンティティは個人的な誇りのようなものだけでなく、それ以上の意味があると思います。私にはごく自然に感じますが、人によっていろいろな解釈や思いがあり、それにとても興味があります」

 ─ 地図を見ることは歴史を掘り起こすことにもつながるかもしれませんね。長く住んでいる人に話を聞くと、もっともっと面白いと思います。

 「私は今武蔵野市の『緑町パークタウン(UR都市機構)』に住んでいます。1990年ごろ、再生事業の計画があったらしいのですが、住民は反対しました。そして住民の意向を生かした建て替えを行なったそうです。このことにとても興味があり、自治会で写真を見せてもらったりしました。ひばりが丘団地に1棟だけ残されたスターハウスが、自分の住んでいる団地にも昔はたくさんあって驚きました」

 ─ 再生事業とか、建て替えとか、住んでいる場所から離れるという選択肢があるにもかかわらず住み続けるというのは愛着があがるからだろうし、自然環境や人の環境が心地よい、ということでしょうか?

 「そうですね。何に愛着があってここに住み続けているのか、そこが大事だと思います。

 ―最後にひばりが丘団地の中ではどのあたりが好きな場所ですか?

 「(少し間をおいて)スターハウスのあたりかな。広場があって、サクラがあって…」

ひばりが丘団地では今年も「さくらまつり」が予定されている。会場でマシューさんに会えるかもしれない。

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By 渡邉篤子

ひばりが丘在住約30年。音楽教室講師の傍ら公民館などで音楽講座の講師を務める。ひばりが丘でエリアマネジメントをする民間団体「まちにわひばりが丘」のボランティアチーム「まちにわ師」2期生。コミュニティーメディア「AERU」担当。

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