埼玉県所沢市在住で『北多摩戦後クロニクル』の筆者の1人、写真家飯島幸永氏の作品展「消えた海 1973年~1976年」―千葉県内房海岸・京葉臨海コンビナート開発 その光と影―が東京・千代田区一番町、JCII フォトサロンで3月30日まで開かれている。
豊かな漁場を抱えた内房海岸が高度経済成長に伴う臨海工業地帯へと急速に変貌する姿と、その過程で転業を余儀なくされた漁師や地元の人々の生活を65枚のモノクロ写真で綴った。
約50年前の1970年代、工業地帯への開発は千葉県浦安市から内房海岸西側の市原、袖ケ浦、木更津、富津各市に及び、既に漁業権を放棄した漁師たちの多くは埋め立てによる造成と工場建設などの労働者として生活の糧を求めた。写真は変わり果てた海岸を背景に働き、生活する人々の複雑な心情を静かに、しかし切々と表現している。
飯島氏は「潮干狩りや海水浴でおなじみ内房の海がみるみる変貌してゆくのに心を痛め、工事現場の土ぼこりにまみれながらレンズを構えた。写っている人々の多くは戦争経験者であり、時代の激変にほんろうされながらも懸命に生きてきた。戦後80年間の一つの節目ともいえるこの時代をあらためて考える機会にしたかった」と話している。
JCII フォトサロンは地下鉄半蔵門駅徒歩1分。午前10時から午後5時まで、月曜休館。入場無料。
飯島氏は1942年東京生まれで、東京写真大(現東京工芸大)を卒業後写真家杉山吉良氏に師事し、71年フリーに転じ日本各地を旅して風土と人間の撮影に取り組んだ。主な写真集に『人間上村松篁』(小学館)、『日本画家・堀文子 美の旅人』(実業之日本社)、『寒流/津軽のおんな/越後・雪下有情』(彩流社)、『暖流/八重山諸島につなぐ命』(同)。2024年出版の『北多摩戦後クロニクル』には1981年ごろの北多摩地域を撮った写真と武蔵野への思いを表したエッセイを掲載した。


関連情報:
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