小平市天神町のデータセンター建設予定地

 人工知能(AI)などの情報処理を担うデータセンター(DC)建設計画が全国各地で進む一方、環境や安全性などの懸念から周辺住民の建設反対運動が広がっている。小平市天神町で進むDC建設予定地は、住宅密集地の真ん中に戸建て住宅と近接して計画されているうえ、事業主が途中で別会社に変更になるなどして地元住民は不安を募らせている。

■各地で激化する反対運動

 インターネットのデータ量急増や生成AIの利用拡大などを背景にDC建設数は世界的に増え続け、市場規模も急速に拡大している。DCはもはやデジタル社会を根底から支える不可欠の社会インフラだ。大規模な建物と機器(償却資産)を要するため、自治体にとっては固定資産税と都市計画税の税収増をもたらす安定的な財源になりうる。

 一方、排熱や騒音、防災上の懸念などから建設反対や見直しを求める住民の動きが各地で激化している。東京都の江東区、日野市、昭島市、埼玉県さいたま市……。千葉県の流山市では住民の反対で計画が中止になり、白井市、印西市では市に開発許可や建築確認の取り消しを求める訴訟に発展している。近隣で建設が頓挫した事例は東久留米市のイオンモール北側に計画された外資系のDCがある。

 小平市で進む計画は、天神町1丁目の「あけぼのパン」工場跡地(準工業地域、事業面積約2万1000平方メートル)に高さ25メートルの建物(マンション8階相当)を建設する。2024年8月の土地利用構想届け出以降、住民説明会や調整会などでは周辺住民から環境や防災をめぐるさまざまな不安と疑問の声が挙がった。

■多摩地区に建設が続く可能性

 「私たちはDCそのものを否定しているわけではない。ただ建て方に問題がある。ここの計画が他の地域と違うのは、建設地が戸建て住宅の並ぶ住宅密集地のど真ん中に位置し、周囲の道路幅が非常に狭いことです」。周辺の住民有志で立ち上げた「環境と暮らしを考える会」(以下「考える会」)代表の竹澤祐美子さんはさまざまな懸念を挙げる。

 道路幅員は4・8〜6メートル。建設地西側は戸建て住宅に隣接し、北・東・南側に面した道路は幼稚園、小中学校の通園・通学路になっている。このため空調機器からの排熱による気温上昇や日照障害、24時間稼働時・非常用発電機定期点検時の騒音、圧迫感や景観阻害、電磁波・低周波の影響などが深刻な問題になる。約3年間の工事期間中、多数の大型車両の通行による騒音、振動、交通事故のリスクもある。国内外のDCで相次ぎ発生している火災に対して、道路が狭いと大型消防車が入りにくく、近隣に延焼する危険性が格段に高くなる。しかも敷地内の地下には重油など非常用発電機用の燃料を大量に蓄えている。

 事業主が通信専門の企業ではなく、DCを実際に運用する企業が建物に併設されていない点も心配だ。事業主・施工者・利用する運用会社・稼働後の運営会社が別会社で、トラブル発生時の責任の所在が明確ではなく、事業主が建設後に海外の企業に売却する可能性もある。さらに「情報の秘匿性」「テロ対策」を理由に建物や設備、運用に関する情報が十分開示されない――。

 「考える会」ではこれまで学習会を2回開催。首都圏各地の地域住民が連携して昨年9月に設立した「都市型データセンターあり方検討会」にも参加し、情報交換を図る。竹澤さんは「賛成反対ではなく、まずここに何ができるかを知ってほしい。排熱や騒音は高層への影響のほうが大きいので、近隣のマンション居住者も決して他人事ではない。変電所が近いうえ地盤が固くて農地の多い多摩地区には、今後もDCが相次ぎ建設される可能性が高い。これからの地域をどうするか。将来のことまで考えて、子どもや孫の世代に有害となるものを残さないよう、それぞれが考えてほしい」と話す。

■DCに特化した法令の不備

 事業の手続きが進む中で、2025年9月に事業主が当初の合同会社 「SSG10」(代表社員:三井物産アセットマネジメント・ホールディングス)から、資金調達のための特定目的会社「Digital Land Ⅳ Japan」に変更され、運営会社は外資系の「DayOne Data Centers Japan」(親会社は本社シンガポール)になった。当初予定された昨年9月の着工は延期された。さらに設計者も変更されたことで、住民側は「当初の土地利用構想や事業主の防災・環境対策の方針は、そのまま新しい事業主に引き継がれるのか」と不安を募らせた。

 小林洋子・小平市長は2025年2月、事業主に対して圧迫感・騒音・振動の低減化や周辺住民との情報共有、運営・管理責任の明確化など6項目の「助言」を提出。さらに10月、周辺住民との協議内容を新事業主は引き継ぎ、住民説明会後に条例手続きを進めるよう求めた要望書を提出した。

 これに対して事業主は見解書を出し、今年2月に建設地から半径50メートル以内の住民600戸に事業主・設計者の変更、事業の承継、説明会での質疑内容要旨を告知した。事業主は「一部住民の方々から反対の声があることを真摯に受け止めている。周辺に配慮した計画としつつ、住民の理解を得ながら取り組んでいきたい」としている。

 市議会の一般質問でも各会派の市議がこの問題を取り上げてきた。DCの膨大な電力消費、CO2排出量の影響は周辺住民にとどまらない。議会では天神町のDCの受電容量は最大53メガワットで使用電力は11万世帯分に相当し、CO2排出量は2022年度の市全体の約46%を占めるという試算が紹介された。昨年12月の小平市環境審議会では「市はエネルギー使用量全体の半分を占める家庭部門の電力消費を減らす取り組みをしてきたが、DC建設でその取り組みの意味がなくなってしまうのではないか」との懸念が表明された。

 日本には急速に普及するDCの立地や騒音などを専門に規制する法令がない。例えば大量の燃料を備蓄するDCは建築基準法では単に「事務所」や「倉庫」として扱われ、住宅地周辺でも建設が可能になることが地域とのトラブルにもつながってきた。

 政府は建設計画が首都圏や関西圏へ過度に集中する現状に対して地方への立地分散を支援している。また東京都はDC建設に対して景観や環境に基準を設けるガイドラインを策定し、その環境性能や地域貢献度を評価する認定制度を創設する方針を打ち出した。

■住民・事業者・市の建設的対話を

 各自治体も独自の対策に乗り出している。今年の市議会3月定例会でこの問題を取り上げた水口かずえ市議は、江東区が運用を始めたDC建設の「対応方針」や「指導要綱」、日野市や流山市のまちづくり条例を挙げながら、「小平市も土地利用構想への助言や調停など、まちづくりに市民の意見がもっと反映されるような施策が考えられないか。事業主と住民の自主的な解決に任せるのではなく、市自らが調停案を作成するなど両者の仲介役としての役割を果たす仕組みを作ってほしい」と提言する。

 これに対して市側は「小平市の現在の条例で十分カバーできており、新たな制度を作る検討はしていない。DC建設は法律にも条例でも定められておらず、民間事業に対して自治体ができることは限られている。市としては事業主に周辺住民への丁寧な説明に努めるよう再三伝えている」(都市計画課)と述べる。

 地元「天神町107自治会」会長の高久雄一郎さんは専門的な知見を基に、建設に伴うリスク評価と具体的対策案を詳細なレポートにまとめた。「DCが単なる迷惑施設ではなく地域に寄与する資産となるためには、住民、事業者、市が建設的な対話を重ねて合意形成を図っていく必要がある。例えば今の公害防止協定をDC向けに拡張した『地域環境・共生協定』として結ぶことは自治体の強力な支援と介入があれば十分に実現可能だ。事業主にとってもESG(環境・社会・ガバナンス)経営の実践になる。安全基準や環境保全などの目標を共有して市のガイドラインを策定すれば、DC整備のモデルケースとして今後の都市づくりにも生かせるはずだ」とDCと地域が共存する道を探る。

 事業主から住民に対する説明会は4月中頃に開催される予定。「考える会」は、小平市に住民の合意が得られるよう事業主を指導し、説明会や協議に市も参加するよう求める署名を近く提出する。

【参考情報】

環境と暮らしを考える会

都市型データセンターあり方検討会

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By 片岡義博

共同通信社の文化部記者として主に演劇、論壇を担当。福岡編集部、文化部デスクを経て2007年にフリーに。書籍のライティングと編集、書評などを手掛ける。2009年から小平市在住。

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