東久留米市の西端にある柳窪地区は江戸~明治期の古民家や屋敷林、緑地や畑が一体となった地域で、武蔵野の原風景ともいえる貴重な歴史的景観を残していこうと地元住民などが中心になって保存活動を続けてきた。しかし近年、周辺の開発や相続に伴う問題などから古民家の所有者が維持を断念するケースが出て、保存活動に取り組んできた関係者に衝撃を与えており、市民と行政が一体となって保存や活用の道を探るべきとの声が高まっている。
6月14日、変わりつつある地域の現状を知ってもらおうと「柳窪の古民家と屋敷林を守る会」が企画した柳窪地区での見学会が開かれた。東久留米市や清瀬市、中野区などから11人が参加、筆者も一行に加わった。
見学会のコースに現れたのは、赤茶色の土がむき出しになった広大な土地。ここには明治時代に建てられた民家や蔵などがあったが、すべて解体され、今年4月、全くの更地になった。見学会の参加者たちは、まだ生々しさを残す屋敷林の巨大な切り株にかわるがわるカメラを向けていた。
■最大の危機 宇兵衛住宅
いま最大の危機を迎えているのが宇兵衛住宅(奥住家)。明治10年代に建てられた地域最大級の古民家で、現在も住居として使われているが、当主が高齢のため、相続が喫緊の課題だ。親族から「保存する方策を探ってほしい」との要望が「守る会」などに寄せられている。
この日は、近くで農業を営む分家の奥住實さんが窮状を訴えた。自宅の竹を使って長年、地元の小学校で「竹とんぼ」の作り方を教えてきたという奥住さん。養蚕業を営んできた歴史にふれ、「家には農業を学べる教材も数多く残されている。学習の場としての利用も含め、皆さんのお知恵をお借りしたい。先祖が営々として築いてきた家を何としても守っていきたい」と力を込めた。
見学会の締めくくりは、顧想園(こそうえん)と呼ばれる国の登録有形文化財「村野家住宅」。一族の関連会社が管理しているが、維持していくためには、市民の理解や行政の協力が不可欠だという。副園主の村野あやさんはこんな悩みを打ち明けた。
「近隣に新たに住むようになった人たちの中には、『まるで軽井沢のよう』と言って環境を愛でてくれる方も多いのですが、落ち葉の季節には苦情も届き、屋敷林の高木が倒れないようにしてくれとの注文もきます。子どもたちの役に立てばと地元の小学生を招いて定期的に見学会を開いています。広く市内全域の子どもたちにも来てほしいと思い、教育委員会に声を掛けたのですが、移動の費用などの問題があるのでしょうか、なしのつぶてです」




■市役所の英知も結集を
柳窪地区の景観保全については6月11日の東久留米市議会の一般質問でも取り上げられた。多くの市民が傍聴するなか、議員が「柳窪地区は古民家や蔵、樹林などが一体で残された貴重な空間であり、市の都市計画マスタープランでもこれを生かした活力のあるマチづくりを進めるとある」として市の認識と取り組みの現状について質問した。
これに対して、答弁を行ったのは緑地保全を所管する環境安全部で、▽古民家等がある区域は市の緑地保全計画の対象地域に入っていない▽個別の民有財産への対応は公益性や財政面などの観点から総合的な判断が必要、との見解を示した一方、「歴史的景観資源を保全・活用する」とした市の都市計画マスタープランには触れずじまいだった。
見学会を企画した「柳窪の古民家と屋敷林を守る会」の柘植正憲さんは行政のかかわり方についてこう注文をつける。
「歴史的景観資源の利活用は多岐にわたる検討が必要だが、市役所には部局を束ねて総合的な判断をするヘッドクオーターが存在せず、住民が柳窪のゾーンとしての活用プランを作って相談を持ち掛けても、たらい回しにされてきた。財政難はどこの自治体も同じこと。『カネも口も出さない』というスタンスではなく、専門家集団としての市役所の英知を結集してほしい」
筆者は柳窪に「一目ぼれ」といった心境にある。これまで足を運ばなかったことを口惜しく思う。高木が立ち並び、清澄な空気が流れる「けやきのこみち」では、思わず深呼吸をした。傷みもなく、堂々とした佇まいの古民家と蔵の数々。手入れが行き届いた屋敷林と園庭。関係者の長年の労苦がしのばれる。この「東久留米の宝」を生かす道をともに考えていきたいと思う。失ってから嘆いても始まらないのだから。


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