保谷駅北口の階段を下るとすぐのところにある郷土料理の店「ねぶた茶屋」が、2月29日に28年の幕を閉じる。新たなスーパーの建設のため立ち退きを迫られ、閉店は苦渋の決断だった。(カバー写真:4人のスタッフら。X=旧ツイッターより)

 ねぶた茶屋の開店は1996(平成8)年5月2日。当時、北口のロータリーはできておらず、北口は「なにもない」状態だった。そのなかでこの店は独特の存在感を示し、新型コロナにも負けずにやってきた。それだけに閉店を惜しむ声は多い。

 個性がなければ店は続かない。ねぶた茶屋の特質はなんといっても文字通りの〝青森性〟にある。

 店主の今一枝さんは青森市出身。店内・外にねぶた絵を飾り、青森の地酒を揃え、大間のマグロなどの魚のほか、煮干しラーメン、黒石スープ焼きそばなど郷土料理に力を入れた。週末は津軽三味線日本一になったこともある名人によるライブもある。21時を過ぎると、カラオケスナックのノリのカラオケタイムになることもあった。

 そうした〝青森〟は保谷の地に定着していった。時間を重ねるにつれ、店には懐かしい〝昭和〟の空気が漂っていた。ここは東京なのに〝青森〟であり〝昭和〟だった。

 というわけでこの店には、地元の人はもちろん、青森県出身者や関係者が集まる。

 店の常連で、弘前大学のOBだという70代男性に話を聞いた。

「南口に住んでいるけれど、なにかに引き寄せられるようにここに来るようになったね。東京在住の大学OBで小さな同窓会をやったこともある。こういう店はなかなかないから、けっこう遠くからも来てくれた。だから、ねぶたがなくなるのは、ほんとうに残念」

 それを聞いて店主の今さんは、

 「好きでやめるわけじゃないですからね、私もつらいです」

 と述べ、こう付け加えた。

 「でもね、お店を始めたときから私を含めて4人の女性メンバーで、メンバーチェンジもなくずっとこの店を守ってきたこと、これは誇らしいですね」

 飲食店が10年後に残っている確率は5%という説がある。28年間も、いやほんとうはもっと長かったはずだが、愛された店を続けてきたことは称賛に値すると思う。

 個人経営の店が次々になくなって昨今である。こういう店が長続きできる社会になってほしいものだ。

 今さんたち4人のスタッフは4月には揃って青森市に行き、準備ができしだい「ねぶた茶屋」を再開する予定だという。健闘を祈りたい。

【関連情報】
・ねぶた茶屋(X

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By 杉山尚次

1958年生まれ。翌年から東久留米市在住。編集者。図書出版・言視舎代表。ひばりタイムスで2020年10月から2023年12月まで「書物でめぐる武蔵野」連載。

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