滝山団地を南北に貫く新小金井街道のイチョウ並木

 ドラマ『団地のふたり』の「どんでん返し」について前にふれた。それは、いったん決まったかに見えた団地の建て替えが、業者に逃げられて中止になったということだった。それについて、ノエチ(小泉今日子)の夢というなんともベタな演出だが、それでも書いておきたいシーンがあった。

▼建て替え反対?

 団地では、建て替え反対ということで、集会所のようなところをバリケードで封鎖している。バリケード前の立て看板は、芸が細かくちゃんとそれらしい書体で描かれている。おかあさん(丘みつ子)が爆弾のようなものをバリケード内から投げると爆発。煙のなかからセーラー服を着たキョンキョンが機関銃を乱射しながら登場。撃ち終わると「か・い・か・ん」というセリフで締める。

 もちろん映画『セーラー服と機関銃』の薬師丸ひろ子のパロディーだが、わかっちゃいるけど笑ってしまった。こういうところが、このドラマの憎いところだ。

 ドラマはともかく、実際のところ、建て替え問題はどうなんだろうという疑問が残った。というのも、モデルでロケ地の滝山団地(東久留米市)は建て替えられていないように見えるからだ。

 近くにあるひばりが丘団地は全面的に建て替えられ、現在は「ひばりが丘パークヒルズ」に、東久留米団地も同様で「グリーンヒルズ東久留米」となっている。滝山団地は、ひばりが丘団地の建設からほぼ10年後、1968年の入居開始だから、すでに建ってから56年経過していることになる*。

 *近隣の団地の誕生年と戸数――ひばりが丘団地59年2714戸、東久留米団地62年2280戸、滝山団地68年3180戸。ちなみに滝山団地の人口≒滝山2、3、6丁目の人口は、2010年6881人、2020年5857人(国勢調査)となっている。人口減少は止まっていない。

 建て替えるか、建て替えないかは、住んでいる方々が決めることであり、外野からとやかく言う筋合いではないことはわかっている。しかし、ドラマのような温かい共同性はフィクションだとしても、旧い団地にも、これまで気づかなかったような価値があるかもしれないではないか。そうすると、そもそも団地の耐用年数はどれくらいなのだろうか、気になる。

 そこで建築の専門家の意見を聞くことにした。

▼団地の耐用年数

 一級建築士のNさんは、大小さまざまな建築物の設計や街づくりに携わってきたかなりのベテラン。大学で社会学を講ずるという貌(かお)ももつ。老朽化した建物についての相談や調査を何度も依頼されたことがあるそうなので、まさに意見を聞くのにうってつけの専門家だ。

 ずばり、団地の耐用年数を聞いたところ、一枚の表を見せてくれた。

 「建築物の耐用年数(一般建物)各部材点検・改修時期一覧表」である。

 これは団地のような建物にも適用できる。建築外部の「躯体」「防水」…建築内部の「床」「天井」などの部材ごとに、耐用年数、点検時期、要部品交換、一部改修・修理時期がわかるようになっている。これを見ながらN氏は、

 「公営住宅法では70年になっていますが、物理的には最長60年、というところでしょうね」と語った。

 「『躯体』は『外壁』『床』『屋上(屋根)』に分かれ、耐用年数は65年となっています。それらを構成するコンクリートがどれだけ持つかということです。ただし、これは建物の構造だけのことで、内装はそんなに持たない、20年とか30年で改修が必要です。でもそれは2回が限度でしょう。するとだいたい60年が限界ということになります。

 ちなみに原子力発電所の耐用年数は60年といわれます。原発のコンクリートは、それくらいで劣化が相当に進み始めるということです。

 また、団地の耐震性の問題もあります。旧い団地はいつ耐震補強工事をしたかということで、寿命は変わってきます。

 次に、税法上でいえば47年が区切りです」

 ???

 「つまり、建築物は毎年減価償却していくわけですが、47年経つと減価償却は終わり、税法上の資産価値がなくなります。その意味での47年ですね」

 なるほど、実務をこなす人らしい教えだ。さらに社会学者らしいユニークな意見もいただいた。

 「団地の耐用年数には社会的側面もあると思います。団地が当初もっていた社会的役割は、住民構成の変化、立地条件などで大きく変わってしまうこともあるはずです。それを無視すると老朽化が進むだけです。

 そこで発想の転換です。駅から遠く陸の孤島になっていて、買い物する場も遠い。エレベーターもない。空き部屋、空き地が目立つ。こういう状況は高齢者にはつらいですが、それを気にしない若者もいるはずです。たとえば、クルマやバイクが好きな人にとっては、そういう場所は願ってもないわけで、そういう人をターゲットにした集合住宅にリニューアルする方法がある、と思っています」

 N氏は、神奈川県の鎌倉市、海に近い稲村ケ崎の築40年の木造アパートをサーファーのための住居にリフォームし、成功した実績がある。通勤には不向き、古い建物、しかし海に近いという環境を逆手にとった方法だ。

 この応用ができるかということだと思う。必要なのはマイナスをプラスにする発想だろう。人口減少だって、それを気にしない人が集まればいいのではないか。団地の再生方法は一様ではないということだと思う。

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By 杉山尚次

1958年生まれ。翌年から東久留米市在住。編集者。図書出版・言視舎代表。ひばりタイムスで2020年10月から2023年12月まで「書物でめぐる武蔵野」連載。

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