紅葉が進む滝山団地

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 9月にNHKのBSドラマ小泉今日子と小林聡美主演の『団地のふたり』をめぐって、そのロケ地になった滝山団地や団地生活について書いたところ、驚くほどのアクセスがあった。人気ドラマ(女優)の影響力の大きさを思い知った。

■団地映画のシリーズ

 反響の一部を紹介したい。ネタバレ御免。

 まず、コメントをいただいた件(ありがとうございます)、いまのところこのドラマの無料の再放送は、BS4K以外発表されていない。見逃し配信もない。NHKの人気のありそうなコンテンツでは起こりがちだと感じられる(以前サザンオールスターズでこういうことがあった)。なぜそうなのか一般人にはわからない。再放送などの情報が簡単に手に入る時代になったのだから、公共放送は、もったいつけずにサッサッと公開してもらいたいものだ。

 印象深い団地映画を教えてくださった方もいる。

 まず『喜劇 駅前団地』。61年の東宝作品で、井伏鱒二原作『駅前旅館』(58年)に続く「駅前シリーズ」の2作目(久松静児監督)。東宝のシリーズには他に「社長シリーズ」「若大将シリーズ」などがあり、映画の黄金期を担った。「駅前シリーズ」は24作も作られている。高度経済成長期、「駅前」は訴求力のあるキーワードだったのだろうか。

 『喜劇 駅前団地』は小田急線の百合丘団地が舞台。DVDのパッケージを見ると、フランキー堺が土地ブローカー、森繫久彌が地元の開業医、伴淳三郎が地主を演じ、森繫と伴淳がフランキーのネクタイを締めあげている写真が載っている。北多摩のひばりが丘団地を当時の皇太子夫妻が訪れたのは60年。その後東京郊外では次々に団地開発が進んでいく。開発をめぐるドタバタ劇が映画になるのはうなずける。

 シリーズでいうと、日活ロマンポルノには「団地妻シリーズ」があった。なにしろロマンポルノ第一作が『団地妻 昼下がりの情事』(71年、西村昭五郎監督)であり、その後「ロマンポルノの女王」と呼ばれた白川和子が主演しているのだから、重要なシリーズあることに間違いない。「団地妻」は次々に作られ、「新・団地妻シリーズ」も作られている。夫不在の昼下がりの団地で主婦が何を……という性的妄想は、当時の社会風俗を反映しているに違いなく、凡庸だが強い吸引力をもった。「団地妻」は映画だけでなく時代のキーワードだったということができる。

■くたびれてきた団地

 そこからかなりの時が流れた。「バブル経済」やら「グローバル化」やら「失われた30年」やらがあって、団地が住まい方の中心だった時代ではなくなった。2016年、是枝裕和監督『海よりもなお深く』では、清瀬の旭が丘団地が印象的に使われていた。団地の古びた感は『団地のふたり』と地続きといえる。ここでは「情事」は起こりようがない。色恋沙汰のもっと向こう側にある生活がリアリティをもつ。

 主人公は阿部寛、さえない作家で、離婚した元妻の真木よう子に未練たらたら、月1回元妻と暮らす息子に会うのを楽しみにしている。そして、団地で悠々と一人で暮らしている母・樹木希林をなにかと頼りにする(阿部―樹木の親子は、2008年の是枝作品『歩いても 歩いても』でも登場する)。

 ある日、主人公は母を団地に訪ねたところ、そこで元妻と息子にたまたまでくわす。その日は台風が来てしまい、翌朝まで帰れなくなった家族は……という展開だ。是枝監督が一貫して追求している家族のあり方を問う作品になっている。ちなみに是枝監督は、清瀬の旭が丘団地に、長い間暮らしたことがあるらしい。

 この映画に小林聡美が主人公の姉として、橋爪功が団地の住人として出演しているのは、『団地のふたり』からの流れとしては出来すぎというか、『団地の…』のプロデューサーはこの映画を当然意識したのだろう。

 冒頭に戻ると、筆者に寄せられた反応に、団地生活が長かった友人からのものがあった。それは、「橋爪功のようなお人好しは実際はいない。しかし、ベンガルのような意地悪でうるさくて迷惑なクレーマーはたくさんいる」とのことだった。そりゃそうかもしれないが、それじゃドラマにならんだろ、というのが筆者の考えだ。

■小林―小泉ドラマの『すいか』

 団地関連の映画はもっともっとたくさんあるだろうが、それを要領よく紹介する力量がないので、あと何本か『団地と…』とどこかつながっているドラマを紹介する。

 ひとつは、滝山団地をロケ地として使ったドラマ『日曜の夜くらいは』(テレビ朝日系)で、2023年の作品。岡田惠和の脚本で、清野菜名と岸井ゆきのという人気若手女優が出ていた。滝山団地はやはりトレンディなのだろうか。

 団地とは関係ないが、この秋にスタートしたドラマでも、北多摩地域と関係のありそうなものがあった。岡田将生・中井貴一主演の『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日系)がそれで、ナースである主人公が働く病院が「西東京総合病院」となっている。西東京市にあるのは「西東京中央総合病院」で、ちょっと違う。ドラマには通称「田無タワー」や西武バスがちらり出てきたりするが、ロケ地は北多摩周辺ではないようだ。保谷と田無が合併(2001年)してできた「西東京」も、20年以上を経て、ドラマに使われるような独特なイメージをもつにいたった、といえるかもしれない。

 そしてもう一本、小泉今日子と小林聡美が共演していた名作として強く推薦してくれた人が複数人いた『すいか』(日本テレビ系、2003年)を紹介する。西東京市ができた頃の作品だ。

 主人公は小林で、30歳代なかば、独身で地味な信用金庫職員、当初実家で生活している。小泉は小林の数少ない同僚で友達なのだが、ある夏の日、金庫の預金を3億円横領して世間からトンずらする、というところからドラマは始まる。

 ところが、この横領事件がメインとなってドラマが展開するのではない。小泉は友情出演で、最終回を除いて毎回元気に逃走中の姿をちょっとだけあらわす程度。メインは、ひょんなことから小林が下宿することになる賄付き、エアコンなし(驚くことに夏なのに当時この設定が成り立っていた、つまり20年前は東京の夏はそれくらいの暑さだった!)ハピネス三茶の住民たちのコメディタッチの群像劇なのだ。

 ハピネス三茶は、三軒茶屋の近くを流れる小川と畑に囲まれた郊外みたいな立地。近くを世田谷線が走る(ロケ地は三茶ではないらしい)。素っ頓狂な若い大家・市川実日子、長く住みついている変わり者で喧嘩っ早い大学教授・浅丘ルリ子、あまり売れていないエロマンガ家・ともさかりえ(じつは世田谷の大金持ちの娘、双子の姉がいたが最近亡くなっている)、そして新入りの小林という4人の住人に、子離れできない主人公の母親・白石加代子や近所のオヤジ・高橋克実らが絡む。彼らが織りなすひと夏のエピソードでドラマは構成されている。

 回が進むにつれて、こういう関係の距離感はいいな、ずっと続くといいのに、と思わせるようになっていく。でも、そういう共同性は儚(はかな)い。ドラマというフィクションのなかでしか成り立たないのかもしれない。かろうじていいバランスがとれている期間が、「すいか」の季節=ドラマ10回分ということなのだろう。

最終回、逃亡中の横領犯・小泉と主人公・小林は再会する。このドラマが事件ものなら、小泉は桐野夏生の小説にでてくるような賢くて強い女性主人公を演じたに違いないと夢想した。なにしろ捕まらないのだから。

そして、小泉―小林の会話は、いま見ると『団地のふたり』のまんまだった。ふたりの関係はリアルなのかフィクションなのか、虚実皮膜みたいなところがある。それが20年以上(それ以上?)続いているのがすごいと感じたのだった。

・次に読みたい:【コラム】『団地のふたり』ロスの埋め合わせに ヴェンダース、竹内まりやと重ねて

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By 杉山尚次

1958年生まれ。翌年から東久留米市在住。編集者。図書出版・言視舎代表。ひばりタイムスで2020年10月から2023年12月まで「書物でめぐる武蔵野」連載。

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