長年にわたり理不尽な差別と人権侵害を受けたハンセン病患者の苦しみ、悲しみ、そして愛と希望を描いた紙芝居がこのほど完成し4月6日、東村山市で披露された。
「わたしの命の物語」と題した紙芝居は2015年公開の映画の原作となった小説「あん」の作者ドリアン助川さんが脚本を書き、「目に見えない大切なものを描く」をテーマに絵画作品の制作と展示を行い、人権や平和に関する活動にも多く携わるアートユニット「ペトロアンドヨゼフ」(田川誠さんと深澤慎也さん)が絵を提供した。
ハンセン病を患い、強制隔離施設に収容された男女が互いに愛情を抱き結婚して赤ちゃんを身ごもったものの、当時の法律では出産を許されず命を奪われるという悲しくも残酷な物語。メルヘン調の優しく美しい絵に乗せられたストーリーはこの世に生を受けられなかった赤ちゃんの独白の形をとって進行する。
この日、東村山市・中央公民館で開催された「ハンセン病問題を知る企画」の一こまとして約50人の客を前に紙芝居が披露された。朗読を担当したのは同市内のハンセン病国立療養所多磨全生園にある「お食事処 なごみ」を切り盛りする藤崎美智子さん(73)。藤崎さんは皆から「みっちゃん」と呼ばれており、この紙芝居制作を企画し多くの人々の協力を得て実現させた立役者だ。
東村山市内のすし店女将だったみっちゃんがハンセン病問題に目覚めたきっかけは「あん」だった。すし店主の夫との死別後ボランティア活動に打ち込んでいたみっちゃんは全生園を含む東村山市内で行われた映画「あん」のロケ撮影に献身的に協力した。
その縁でみっちゃんは存続が危ぶまれた「なごみ」の運営を引き受けることになった。さらに、全生園内に住み全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)事務局長を務めていた藤崎陸安(みちやす)さんと知り合い再婚を果たす。
陸安さんが2023年、80歳で先立つまでの6年間、夫婦として支え合う中でみっちゃんは生涯を通じてハンセン病をめぐる差別と闘い、患者・回復者の権利擁護のために尽くしてきた陸安さんの生き方から学び、人権の大切さを社会に訴える思いを固めていった。
ハンセン病問題に対する社会の理解を深めるための一つの手段として紙芝居を作ったらどうか、2人で思いついたアイデアは陸安さんの死去で果たされないままみっちゃんの胸にしまわれた。この「宿題」を果たすため周囲の人々も立ち上がった。
ペトロアンドヨゼフがハンセン病問題をテーマに描きためていた絵の中からドリアン助川さんが34枚を選び、ストーリーを紡いだ。東村山市の紙芝居サークルも協力するなどしてデモ版5セットが出来た。ドリアン助川さんは「紙芝居の脚本を書く機会を与えてくださりありがとうございました。生まれることができなかった子どもたちが新しい光の中で、新しい雨の潤いを得て、世界のどこかで新たな産声を上げることを祈ります」と言葉を寄せた。
これまで私的な場所などで披露するにとどまっているが、近く本格的に製作し、絵本も出版して全国で見てくれるようになるのを目指している。できるだけ大きな組織などの資金援助に頼らず自力と善意の協力で成し遂げたいというのがみっちゃんの思いだ。
「自分は図々しいんじゃないかと心配になるほど、次から次へと皆さんが助けてくれる」と言うみっちゃんは、4月6日の紙芝居披露の場で「紙芝居を作ることが目的ではなく、人権学習の動機付けの一つになってもらいたいという夫の遺志を受け継ぎたい」と声を詰まらせてあいさつ。客席では目頭を押さえながら紙芝居に見入る姿が目立った。


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みっちやん
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はっちゃん読ませて
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