ハンセン病患者に対する過酷な差別と人権侵害を描いた紙芝居「わたしの命の物語」が9月14日、東村山市の国立ハンセン病資料館で披露された。会場には約100人が集まり、紙芝居と同時にスクリーンに映し出された物語を鑑賞し、制作にまつわる関係者の話に耳を傾けた。
朗読を担当したのは、ハンセン病国立療養所多磨全生園内に住み全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)事務局長を務めた故藤崎陸安(みちやす)さんの妻で、全生園内にある「お食事処 なごみ」を切り盛りする「みっちゃん」こと藤崎美智子さん。この日は陸安さんの三回忌に当たるとともに、1951年に熊本県で起きた菊池事件の被告で、1962年に死刑が執行された「Fさん」の命日でもあった。陸安さんは再審を訴えた運動に力を注いでいた。
初めにみっちゃんがあいさつ。陸安さんの「差別を繰り返してはならない。人権学習の動機付けになるような紙芝居を作りたい」との強い思いを受け継ぎ、多くの方の協力で完成したと感謝の言葉を述べた。そして「紙芝居を作るのが目的ではない。一人でも多くの人にこの作品に触れていただき人権について考えていただきたい」と会場に向かって話し掛けた。
紙芝居は2015年公開の映画の原作となった小説「あん」の作者ドリアン助川さんが脚本を書き、アートユニット「ペトロアンドヨゼフ」(田川誠さんと深澤慎也さん)が描いた絵の中からドリアン助川さんが34枚を選び、ストーリーを紡いだ。東村山市の紙芝居サークルなどが協力するなどして紙芝居が完成した。
紙芝居はハンセン病を患い、強制隔離施設に収容された男女が互いに愛情を抱き結婚して赤ちゃんを身ごもったものの、当時の法律では出産を許されず命を奪われるというストーリー。この世に生を受けられなかった赤ちゃんの独白の形をとって進行する。
紙芝居の披露に先立って舞台に上がったドリアン助川さんは「何の知識もないままにハンセン病問題を背景に人の生きる意味を書きたいと思ったがなかなか書けず、たまたま知り合った入所者の方に誘われて療養所を訪ねて勉強させてもらい、10年以上かけて小説『あん』が生まれた。陸安さんとの付き合いの中で紙芝居作りの意欲を告げられたが難題で、最初は逃げていた。全生園の納骨堂敷地内にある生まれることができなかった子どものための小さな慰霊碑で、両親が置いたのであろうおもちゃを見て決心がついた。国によって奪われた命の意味、生活をすることの尊さを伝えるのがテーマだ」と話した。
『あん』の映画を観て感動したというペトロアンドヨゼフの2人は「最初は堕胎させられた赤ちゃんなどリアルな表現の絵を描いたが、考え直してお母さんのおなかの中にいてこれから生まれてくる喜びに満ちた姿を描こうと思った。すべての命に希望ある明日を、生まれることはできなかったけれども命の大切さを伝えたい」と制作の意図を説明した。
紙芝居普及のほかにも、ユーチューブ動画の作成や絵本の出版も計画しているという。またアニメーションにしてフランスでも公開するプロジェクトが進むなど世界に向けた夢が膨らんでいる。


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