いじめの被害に遭った児童や生徒について「重大事態」と認定された際、第三者委員会などの調査主体が作成する調査報告書。文部科学省の「いじめ防止対策協議会」による調査報告書150件の分析(2024年3月公表)では、1年以内に報告書が取りまとめられたケースが全体の約7割を占め、2年以上要した事例は約1割強にとどまる。ところが、小平市では報告書の作成に長期間を要する状況が続いており、3年以上経っても結論に達していないケースもある。被害児童の複数の保護者は「いじめを風化させようとしているのでは」などと同市教育委員会と第三者委員会への対応に不安と不信感を募らせている。
■途中経過の報告もなく2年3カ月
「2年以上も待たされて、今も結論が出ないなんて……小平市の調査に期待はない」と諦めながら話すのは、小平市内の公立小学校6年に在学中、児童がいじめに遭った保護者。小平市は被害児童について2022年12月、いじめ重大事態と認定した。すでに2年3カ月が経過したものの、第三者委員会はいまだに報告書の結論に至っていない。
当初、保護者は小学校卒業までにいじめの実態が判明するのではとの思いを抱いていた。その期待は打ち砕かれた。ある時、市教育委員会からこう伝えられた。「調査はいつ終わるかわからない」。途中経過の報告もなく、保護者は結論が出ないことへのストレスと不信感を募らせる日々を送った。相談をした弁護士からは「報告書を待つよりも、訴訟を提起したほうがいい」と言われたこともあったという。
「時間が過ぎても、子どもが受けたいじめの傷は未だに癒えていない、いじめを受けた時の場面を思い出し、気が動転することが時折あるようだ」と保護者は話す。「(今の)第三者委員会は、時間をかけても結論を出そうとしない。新たな第三者委員会を早期に立ち上げて、再調査に入ってもらいたい」
■人員不足、予算不足という報告書作成の壁
報告書の作成に時間を要する原因はどこにあるのか。取材を通じて、いくつかの問題が浮かび上がってきた。
「そもそも第三者委員会を構成する専門家の人数が不足しており、いじめの種類の多様化に対応し切れていない現状がある」と現場の窮状を話すのは、東京都内で数多くのいじめ問題に関わる専門家。
通常、第三者委員会を立ち上げる際には、教育委員会が弁護士会や医師会などを通じて専門家の派遣要請をする。ある程度の経験年数を要し、多数の関係者への調査や論点の洗い出しなどに時間を要する一方、スピード感が求められ、精神的なプレッシャーに直面することもある。報告書の作成は2カ月程度で仕上げて、委員同士で修正と共有を繰り返す。報告書に対して被害者はもとより、その保護者が必ずしも納得するわけではないのも現実だ。
第三者委員会の設置を進める教育委員会が直面する問題もある。最大の壁は予算。都内の教育委員会関係者は苦しい胸の内を明かす。
「専門家を相当な時間、拘束することになり、当然それだけ費用も必要になる。だが限られた予算では何人もの専門家に依頼することはできない。同時期に重大事案に認定されたケースもあり、調査を進めようとしても、現実問題として不十分な状態に陥ることがある。結果として、いじめ被害者の保護者が不信感を持つ負のスパイラルが生まれる」
また、学校調査についても、教員不足が叫ばれる中では十分な調査ができないケースが多くあるのではないかと指摘する声もあった。
■新たな被害者を生み出す不安も
小平市では先ほどの事例以外にも、いじめの重大事態として認定されながら、3年が経過しても報告書の結論に達していないケースがある。
被害児童は小平市内の公立小学校に在学中いじめに遭い、不登校になったという。第三者委員会が立ち上がった当初、保護者は「第三者委員会は公平中立な存在。期待はあった」という。その後、調査方針の決定に1年、調査が始まったのは2年目のことだった。保護者から要望のあった調査対象は実際には半分程度にとどまるなど期待は徐々に失われていった。
保護者は幾度となく第三者委員会に対し、学校や教育委員会のいじめに関する打ち合わせ記録の記載など踏み込んだ事実の開示を求めているが、芳しい回答には至っていない。
「同じ過ちを繰り返さないために、学校も教育委員会も何が必要なのか考えてもらいたい。最悪の事態だって起こりうることに目を背けてほしくない。いい加減な対応によって同じ過ちを繰り返してしまう不安感すら覚える」
■いじめの認知件数は前年比5万件増
いじめ防止対策推進法が施行してから10年余りが経過したものの、2024年10月に文部科学省が公表したいじめの認知件数は約73万2500件。前年に比べて約5万件増加している。いじめの低年齢化についても顕著になり、未就学児へのいじめについても、一部では表面化してきている。一方で、いじめ防止対策推進法改正の議論は国会で止まったままだ。
前述の専門家は「調査並びに報告書の作成に時間をかけ過ぎることで、被害者から不信感が生まれてしまうことがある。法律がありながら、法律が守られていない現状を是正するのは急務」と警鐘を鳴らしながらも「いきなり人は増やせない。だからと言って、何もしなくてもいいわけではない。被害者に対して適宜説明をするなど、情報共有をすることで不安感や不信感を減らしていくことが必要だ」と強調した。
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