今の小平駅前には、珈琲屋さんが4つある。
ショッピングセンター2階の「POEM」、グリーンプラザ2階の「永田珈琲」、ルネ小平セブンの「珈琲の香」、そして昨年オープンした「IN THE BOX」(元「居酒屋ろーどす」)。50年前にはまだ「永田珈琲」はなかったけど、「POEM」はすでに今の場所で営業していた。
この「POEM」は、永島慎二作のマンガで知る人ぞ知る名作『若者たち』(74年のNHKのドラマ『黄色い涙』にもなった)に、主人公たちがたむろする阿佐ヶ谷の喫茶店がでてくるが、その姉妹店。この作品にはディープなファンがいて、そういう人に「あのPOEMの姉妹店」と説明するとわかるところが、当時の喫茶店文化を物語っていて面白い。
イラストマップをご覧いただくとわかるけど、75年当時、西友はまだ2階建てだったけど、バスの発着はすでに北口から南口のロータリーに移動していた。このバスについては次回描く予定。
その頃、喫茶店はもうひとつあった。「KEY COFFEE」という珈琲屋さんだ。KEY COFFEEはコーヒーメーカーの名前だから、屋号があったはずだが、失礼ながら失念してしまった。
それは北口を降りて右側の住宅地の中にあり、ボックス席4つと小さなカウンターだけのこぢんまりした個人のお店で、マスターとママ、時々アルバイトのお姉さんがいた。
当時大学生だった私はよく通っていた。私は単に「KEY」と呼んでいた。
「KEY」にはつぶやき帳みたいな雑記帳あって、お客が好きなことを書ける大学ノートが置いてあった。私も時々書いていて、調子に乗って表紙にイラストも描かせてもらったりした。
もうひつ「KEY」の特徴は、一週間単位でお店に中に自分の作品を展示させてくれるというのがあった。写真でも絵でもいい。貧乏学生にとってこんな嬉しいことはない。私も先輩と一緒に「二人展」を開催させてもらった。「二人展」の最後の日に、不憫に思ったのかマスターが私の絵を一枚もらってくれた。いい人だった。
その後私は、ブラック企業に就職したりして、家を出た。そして長い時間がたった。いろいろな場所を転々して、自然、小平から足が遠のいた。
10年前、地元に戻ってきた。そうだ、と思って行ってみると、やはりというべきか「KEY」はなく、学習塾になっていた。中島みゆきの「店の名はライフ」を思い出した(シチュエーションはかなり違うけど)。
そうそう、「お姉さん」を一度見かけたことがあった。就職したころだったか、終電近く、乗り継ぎの関係でホームのベンチで座っていたら、前を「お姉さん」と少し怖そうなお兄さんが足早に通り過ぎて行った。もちろん声をかけることはできなかった。
注:イラストは全て工藤六助による。