銭湯という言葉ですぐに思い出すのは「時間ですよ」だ。
下町にある銭湯を舞台にしたホームコメディの傑作なのだが、15歳という何事にも多感な年頃だった私には、ドラマの内容よりも女湯のシーンが最大の関心事だった。
ま、脚本の橋田壽賀子も、演出の久世光彦も、そんなことは想定内だったと思うけど。

「時間ですよ」が放送されていた1970(昭和45)年当時すでにウチには風呂があったので、銭湯はあくまでテレビの中だけの存在だった。
が、最近その頃撮った駅前の写真をふと見ると、煙突が一本突き出しているのを発見した。その写真は、西友に隣接しているURの4階の踊り場から真新しい駅舎を撮ったもので、駅舎の右側奥に写っていた(イラスト参照))。
あんな所に煙突? お風呂屋さん? あったっけ?
そういえば駅の東側の線路沿いにもあった気が。
ということで、前置きが長くなったけど、今回は小平駅前の銭湯の話し。
銭湯好きには便利な「東京銭湯マップ」いうサイトがあるのだがそれによると、現在小平市内には銭湯はない。小川西町にあった「栄湯」が最後の銭湯で、今年1月閉店している。
「おふろの王様 花小金井店」と「小平天然温泉テルメ小川」があるが、こちらは「温泉」なので「銭湯」としてカウントされないのだろう。
ちなみに現在、お隣りの東村山市に一軒、西東京市、東久留米市にそれぞれ二軒「銭湯」がある。
ではあの煙突はなんだったのだろう。調べてみた。

マップは1966(昭和41)年、新しい小平駅とそれに伴う南口の大規模工事が始まる前の年。
小平駅北口、現在の郵便局跡地の奥、今のパチンコ屋さんの敷地にあるのは「光湯」。駅南口の東側、今の小平駅東栄通り回田道に出る少し手前の線路側にあるのが「鶴の湯」。
1948(昭和23)年、小平霊園開園時の駅周辺は、民家はほとんどなかったが、1956(昭和31)年には駅の南に150世帯近くの都営住宅が建っている。北側は今と変わらず一般住宅地だ。
当時の木造都営住宅には基本風呂はない。この需要を満たすため駅北口に「光湯」が建てられたのではないか。
1960(昭和35)年の資料からすでにその勇姿が確認できる。
その後住宅は駅の南東に拡大していき、駅の南側に「鶴の湯」が登場。南側の住民は、わざわざ踏切を渡って行かなくてもいい立地だ。
1969(昭和44)南口にロータリー、ショッピングセンター、URが完成。この頃になると風呂は一般家庭の標準装備になってくる。
そのためか「光湯」は1974(昭和49)年には姿を消している。「鶴の湯」は平成まで生き残るが。
と、ここまで語ってきたが、実のところ私は「光湯」にも「鶴の湯」にも一度も行った記憶がない。なぜか。当時住んでいた多摩の台住宅(現在の大沼団地)から遠かったから。
引っ越してきた1961(昭和36)年、当然風呂はない。一体私たち家族はどうしていたんだろう。そこで母親に当時のことを聞いてみた。返ってきた答えは、
「アンタと景子(妹)の手を引いて、畑の中を歩いて花小金井の銭湯まで行ったのよ。駅の近くの」
なぜ、花小金井なんだ。小平の駅のほうが近いだろう。覗くオヤジがいたのだろうか、謎だ。
その後、親父が風呂場を建てたおかげで、畑の中を歩いて行くことはなくなったけど代わりに風呂を焚く仕事を仰せつかった。
昔から銭湯は、単に体を洗うだけの場所でなく近所の噂話しをしたり、親にねだって牛乳を飲んだりと、「時間ですよ」みたいなひとつの社交場だった。その場がなくなって久しい。小さな石鹸カタカタ鳴らしながら銭湯に行ってみようかな、と思っても、小平だと電車に乗らなくてはいけないし。
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